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「同一労働同一賃金」に向けた企業対応について (2018年12月)
主任研究員 八木 陽子
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2018年6月29日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(以下「働き方改革法案」)が成立。同法案により非正規雇用者の処遇改善に関する法改正が行われ、「同一労働同一賃金」に向けた企業対応が求められている。

■「同一労働同一賃金」に関する主な法制度

同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の不合理な待遇差の実効ある是正を目的としているが、不合理な待遇差の禁止という点では、すでに労働契約法20条、パートタイム労働法8条で規定されている。

したがって、今回成立した働き方改革法案は現行法が定めるルールを更に強化するもので、同一労働同一賃金という新たな法規制が導入されるわけではない。実際、同法案のどこにも「同一労働同一賃金」という文言は出てこないのである。

働き方改革法案では、現行のパートタイム労働法を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パート・有期法」)に名称変更し、労働契約法20条は廃止される。これに伴い、新たに有期雇用労働者も均等待遇規定(①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は差別的取扱い禁止)および均衡待遇規定(①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情の相違を考慮して不合理な待遇差を禁止)の対象となる。なお、比較対象となる労働者の範囲については、「同一事業所に雇用」から「同一の事業主に雇用される労働者」に変更されることにも注意が必要である。

また、派遣労働者については、①派遣先労働者との均等・均衡待遇、②派遣元労使協定による待遇のいずれかを確保することが義務化される。

■「同一労働同一賃金」を基に働きやすい職場づくり

では、どのような待遇が「不合理」なのか。典型的な事例が「同一労働同一賃金ガイドライン」に示され、問題となる事案と問題にならない事案を比較することで、法律に違反する可能性があるケースを見分けられる。ガイドラインに法的な効力はないが、行政ADRにおける調停や裁判で争われる事案で法的根拠にはならないものの考慮事情になりうる。今年6月1日に出されたハマキョウレックス事件や長澤運輸事件の最高裁判決でも、2016年12月20日付で公表されたガイドライン案を参考にしているようだ。ガイドライン案は労働政策審議会で検討が加えられ、去る8月30日に「たたき台(短時間・有期雇用労働者に関する部分)」が提出された。ガイドラインはパート・有期法の指針となる可能性が高いため、今後の正式発表に注目したい。

対応格差の是正に向けて企業は社内制度の整備が必要となるが、働き方への意識が多様化する中、様々な立場の人にとって働きやすい職場づくりのきっかけになればよいと考える。


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