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県内地元産業の現況  
奈良県内の繊維関連産業・流通小売業等の地元産業の現況に関する情報を提供しています。

*グラフを掲載した「地元産業の現況」(PDF版)はこちらをご覧ください。


流通小売業

近畿経済産業局発表の「百貨店・スーパー販売状況」によると12月の奈良県の百貨店・スーパー販売額(全店ベース、速報)は、前年同月比1.3%減少(近畿合計:4.4%増)と前年を下回った。

商品別内訳をみると、衣料品は前年と比較して8.6%減少(同3.9%増)、飲食料品が0.9%減少(同2.0%増)、身の回り品が7.5%増加(同22.2%増)。新型コロナウイルスの5類移行後初の年末・年始となったことから外出機会が増加し、旅行や帰省、忘年会など人の動きが活発になった。これまで大阪や京都など都市部で目立っていたインバウンド消費は県内でも徐々に増え、特に高額商品や化粧品が売り上げを伸ばしている。

12月、1月の県内百貨店・スーパーの状況は、客足が増加し、週末には多くの家族連れが来店するなどコロナ前の活気を取り戻しつつある。

衣料品は、外出機会の増加により婦人服やカジュアルウェアの販売は好調だったものの、気温の高い日が続いたことからコートやマフラーなど冬物の売上はあまり伸びなかった。

食料品については長引く物価高の影響を受け、消費者の節約・倹約志向は依然強く、1人当たりの購入品数は減少している。そのような中、多くの店舗ではPB(プライベートブランド)商品の開発・販売に力を入れており、ある店舗では「品質や味にこだわったPB商品を開発することで、他社との差別化を図る取組みに力を入れている」との声もある。

県内でも1月1日の能登半島地震の影響を受け「日が経つにつれ災害状況が明らかになってくると、消費者が心理的に買い物を楽しめず来店や買い控えをする姿が見られた」と話す店舗もあるなど、客足が一時的に減少した。ただこうした消費者マインドの低下は徐々に回復しており、各店舗では店頭での募金活動の実施や、石川県の伝統工芸品である輪島塗漆器の販売など様々な支援活動に力を注いでいる。



観光産業(宿泊施設等)

奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、11月が前年同月比1.8ポイント低下の82.7%、12月が同13.9ポイント低下の59.8%、1月が同19.6ポイント低下の46.1%であった。また宿泊人数は、11月が前年同月比2.2%減の52,314人、12月が同18.8%減の39,756人、1月が同34.4%減の29,170人であった。各施設の稼働状況は、秋の観光シーズンには概ね堅調に推移したが、12月に入り低調となり、1月にボトムとなった。コロナ禍以降、各観光地の繁閑は感染状況や旅行支援に左右されていたが、季節による変動はコロナ前の状況に戻ったようである。

業界内では客室稼働率(量)よりもサービス水準(質)を重視し、平均客室単価(ADR)を維持することで賃上げの原資とする動きもあるが、奈良市内では近年客室数が大幅に増加しており、閑散期においては値下げにより稼働率を維持する戦略を取る施設もあるようだ。

県内でも受付、調理、清掃など業界に関連するあらゆる業務の人材が奪い合いの状態で人材確保のための賃上げが重要なテーマとなっているが、コロナ禍で滞っていた設備の更新や高止まりする光熱費の支払い等との兼ね合いもあり、経営者にとっては難しい判断となる。夏、冬の閑散期の稼働率とADRの落ち込みを一定水準に留め、安定的な収益構造を確保するような戦略が必要となる。



木材関連産業(国産材)

国土交通省「住宅着工統計」によると、2023年12月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比4.4%減少し、21か月連続の減少となった。

エネルギー高や円安の影響による建築資材価格の高止まり、人手不足による人件費の高騰などで販売価格が上昇し、さらには働き方改革による工期の長期化などもあり、住宅事業者の業況は鈍化傾向が続いている。

農林水産省「木材流通統計調査」によると、2024年1月の国産材素材(丸太)の価格は、スギが前年同月比6.3%下落、ヒノキは同1.7%上昇となった。木材製品価格は、スギが同15.3%下落、ヒノキも同11.6%下落となった。県内原木市場における2023年1~12月期の取扱高(金額ベース)は、スギが前年同期比13.1%減、ヒノキが5.7%減、原木合計で9.4%減となった。住宅市況の低迷で取扱高は減少しているが、国産材の出材量が限られるなか、輸入材からの代替需要もあり、取引価格は下げ止まりの動きがみられる。

県内の協同組合などが、吉野地域で育った心材が赤黒色を帯びた樹齢100年以上の杉を「吉野百年黒杉」と名付け、販売に力を入れている。材質試験の結果で腐食しにくいことが判明し、独特の色合いの美しさが好評で建材業者からの引き合いも強く、今後認知度が高まり、用途が広がることが期待されている。



繊維関連産業(靴下・パンスト等)

経済産業省「生産動態統計」によると、2023年10月~12月の靴下(パンスト除く)生産数量は11,810千点と前年同期比0.6%減少し、パンスト生産数量は11,711千点と同12.3%増加した。

靴下(パンスト除く)については、暖冬の影響で暖かさを特長とした靴下の売れ行きは低調だったものの、全体としては概ね横ばいで推移した。

パンストについては、新型コロナウイルス感染症の5類移行(2023年5月)に伴い、オフィスワークやフォーマルな式典等が再開されたこともあり、当面は前年比での増加傾向が継続する見通し。

現状、消費者の実質賃金は減少を続けており、消費者マインドの伸びが鈍化している中、原材料費、人件費、エネルギーコストといった靴下等の製造にかかる費用は増加を続けている。各事業者は少しでも利益を上げようと利益率の低いOEM生産への依存から脱却を図り、他社にはない機能などの付加価値を生み出すことによって価格転嫁がしやすい自社ブランド製品の製造を検討する取り組みを進めている。

その中には、高品質であることを世界的に認知されている日本ブランドを前面に押し出し、そこに自社独自の強みを付加価値として加えることで、オンリーワンとなる製品を生み出していきたいといった声も見られ、今後の動向が注目される。



プラスチック製品製造業

プラスチック製品製造業の業績は、自動車関連や医療用器具など付加価値の高い産業用プラスチック製品など一部に力強い動きが見られるものの、日用品や家庭用雑貨などは物価高が下押し圧力となり、受注は概ね横這いで推移するなど全般的に力強さを欠いている。

原油価格は落ち着いているものの、円安の影響で原材料であるナフサは価格が上昇し、電気代や光熱費などの経費も高止まりしている。

段ボールなど梱包資材や運送費などのコストも上昇が続いており、取引先に対する価格転嫁交渉に取り組んでいるが、大半の企業で取引先との交渉が十分に進んでいない。価格転嫁ができない薄利多売の事業者の中には、製造に見合う利益が確保できず、受注を断る事例も増加している。

収益回復の兆しがみられない中、投資意欲は全般的に低いものの、人件費や電気代などのコスト上昇が収益低下につながることから、投資余力のある企業を中心に生産工程の無人化や省エネ対応の機械への入替などの設備投資を進める動きもみられる。

人材面では、若年層の新卒採用の応募がほとんどなく、中途採用者や外国人技能実習生を活用しているが、技術職や専門職を中心に人手不足が深刻化しており、技術開発やDXへの取り組みが進まない要因となっている。



製薬業

厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、2023年6月~2023年11月累計の医薬品の生産金額の全国総計は前年同期比+3.4%(うち受託▲1.7%)、奈良県は+4.2%(うち受託▲2.9%)であった。

全国的に、新型コロナウイルス感染症の5類移行等による外出機会の増加や季節性感染症などの流行を受け、風邪薬、解熱・鎮痛剤などの需要が膨らんだ。10月以降は、季節性インフルエンザの流行拡大や新型コロナウイルス感染症、アデノウイルスによる呼吸器感染症などの患者が増加し咳止め薬や去痰薬の供給不足が続いている。

県内企業の動向については、風邪薬を中心に一般用医薬品の販売が好調で、売上は増加傾向にある。また、春にかけては花粉症関連商品の販売増加が見込まれる。ただ、生産ラインの稼働率は100%に近い状況であり、受注に対応しきれてない状態が続いている事業者も見られる。

ジェネリック医薬品は、大手メーカーの相次ぐ業務停止命令や改善命令を受け、供給停止や限定出荷状態の品目が多く出ており、減産が続いている。各事業者に対する引き合いは増加しているものの、人手不足やコスト増加等から受注できないケースもみられ、供給不足は今後も続く見通し。

配置薬に関しては、人手不足と原材料価格の高騰による販売価格の上昇が続き、売上低迷が顕在化してきている。

業界全体で人手不足感が強く、給与水準の引き上げや人材育成への取り組みなど、人材確保への対応を強化する動きもある。一方、原材料価格上昇に伴う商品への価格転嫁は徐々に進んでおり、売上増加にも寄与しているが、政府による薬価引き下げの推進継続やエネルギー価格等のコスト増加は、事業者の収益を圧迫している。今後は設備投資や品質管理、安定供給体制の強化に向けた管理コストの増加も見込まれるため、収益の確保が課題との声がある。



乗用車販売

奈良運輸支局及び奈良県軽自動車協会によると、奈良県内の2023年の乗用車新車登録台数(普通+小型+軽)は前年比5,385台増(15.4%増)の40,289台となり6年ぶりに増加した。

2023年の新車市場の動向は、半導体不足の本格的な解消に加え、メーカー各社による新車種の発売やモデルチェンジ等の投入効果も良い方向に作用し、前年を大きく上回る結果となった。一方、2024年は業界内での認証申請不正問題に伴う国内生産停止や物価上昇に伴う個人消費の伸び悩みといった要因が、回復傾向に水を差すことも懸念され、今後の見通しはやや不透明な状況となっている。

中古車市場の動向は、新車市場の動きに合わせて下取り(在庫)が増加傾向にあったため、しばらく販売価格は低下を続けていたが、ようやく下げ止まったのではないかと見られる。こうした価格の落ち着きが追い風となり安定した顧客ニーズの確保につながっており、堅調な推移が見込まれる。また、業界内の保険金不正請求問題による中古車市場の値崩れ懸念も、大きな影響は見られない。

EV自動車については、業界No.2の企業(中国資本)が昨年1月に日本へ進出し、2025年末までに100カ所超の店舗開設を目標に事業を拡大している。急速充電設備の普及が遅れている日本では、EV車の普及も時間を要すると見られており、同社の動向には日本の各自動車メーカーも注目している。



運輸業(道路貨物運送)

道路貨物運送業は、ドライバーの時間外労働の規制が強化される2024年4月(2024年問題)が目前に迫る中、県内の多くの中小企業では輸送体制の見直しや人員確保といった施策が道半ばで、輸送力不足による企業活動への影響が懸念されるようになった。荷待ちや荷役作業など取引慣行の見直しや運賃の値上げ交渉への理解は進んできたが、競合他社との過当競争が続く中で荷主企業の立場は強く、これらの交渉は難航している。国は、トラックGメンを創設し適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者に対する是正措置などの対策強化、下請け事業者の取引環境の改善を目指した法改正、標準的運賃の引き上げなど、2024年問題を踏まえた対応を進めているが、抜本的な解決につながるか不透明との声もある。

道路旅客運送業は、観光客の増加や宴会の復活などにより、乗合バス、タクシーともに利用者数はコロナ前に近い水準まで回復しているが、ドライバーの確保が追いついていない。2024年4月からドライバーに必要な休息時間が長くなることで時間外労働に制約が生じ、これまでと同じ業務量を確保するためには新たな人員の確保が必要となることから、人手不足に拍車がかかることとなる。まずは賃上げや労働環境の改善など離職の抑制につながる対策が講じられており、一定の成果が上がっているようだ。乗合バスは人口減少に伴う利用者減少は避けられず、収支改善のためには路線廃止を含む再編成が必要となるが、公共交通機関として自治体等との協議を通じ関係者の理解を得ることが不可欠となる。そのような中、県内の自治体でもAIを活用した予約型乗合バスや自動運転バスの実証実験など、デジタル技術を活用した新たな動きが出てきた。また、タクシーについては一般ドライバーが自家用車で乗客を有償運送する「ライドシェア」の都市部での導入に向けた議論が活発化している。