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渋滞解消に向け、まずは既存道路の整備促進を(2011年8月)
主任研究員 岡本 忠
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■高速道路の実延長が全国で最も短い奈良県

「奈良県みんなでつくる渋滞解消プラン」(平成22年2月県策定)によると、奈良県は、大阪の ベッドタウンとして開発が進み、過去40年間(昭和40年~平成17年)の人口増加率は、全国都道府県の中で4位(首都圏を除くと1位)となっている。人口の約9割は、県土面積の約2割を占めるに過ぎない大和平野地域に集中しているが、道路整備は追いついておらず、平野部を中心に多くの箇所で渋滞が発生している。

渋滞解消に向け、高速道路建設に対する県民の期待は大きいと思われるが、現在、県内の高速道路の実延長※は18.2kmと全国平均162.6kmを大きく下回り、全国最下位となっている。

※「実延長」とは、道路法の規定に基づき指定又は認定された路線の全延長から、重複、未供用等の区間を除いた延長のこと。

ただ、この高速道路18.2㎞は、西名阪自動車道の大阪奈良の県境から天理ICまでの距離であり、第二阪奈、南阪奈は一般国道として、同数値に含まれていない。


■他府県と比べた奈良県の道路事情

次に、「クルマ保有台数あたりの道路延長」という指標を用い、高速道路のみと一般国道、県道、市町村道をも含めた全道路のサービス水準を検証する。

奈良県の「クルマ保有1千台あたりの高速道路の長さ」は22.1mで、全国的には低い水準だが、神奈川県、東京都を上回っている。さらに、一般国道、都道府県道、市町村道を含めた全道路の実延長で「クルマ保有1千台あたりの全道路の長さ」(図表参照)を見ると、奈良県は15.3㎞と、全国平均17.6kmと比べても大きく見劣りはしない。

マスメディアの大半の世論調査は、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行う「RDD方式(乱数番号法)」が採用されている。


■既存道路の整備を重点的に

近年、奈良県の人口は減少に転じており、将来的には全国平均を大幅に上回って減少するとの見方もある。長い目で見ると少子高齢化により、自動車を運転する人口が減少し、渋滞緩和は進むと予想される。このため、財源や用地買収などの問題もあり、新規開通に相当の期間とコストを要する高速道路そのものへの需要が相対的に低下していくと思われる。

前述のように、奈良県は高速道路の実延長は短いが、一般国道等を含めた全道路の長さは全国的にも遜色ないことから、短期的には高速道路の建設よりも、利用頻度の高い既存道路の整備促進を図っていく方が渋滞解消には有効であろう。

県でも、渋滞を解消するため、幹線道路のネットワークの整備や、「渋滞が著しい箇所」に対し車線区分見直しや右折レーンの確保などの短期かつ低コストで実施可能な対策を随時進めており、既存道路の整備促進を優先することが現実的かつ効果的なことだと考える。(岡本忠)


クルマ保有車1千台あたりの全道路の長さと全道路の実延長

(出所:国土交通省道路局企画課「道路統計年報2010」、自動車交通局自動車情報課「自動車保有車両数(月報)」平成21年度末)