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わが国の公共投資水準は本当に適切か?(2012年4月)
研究員 吉村 謙一
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■ピーク時から半減した公共投資予算

病院、道路、橋梁など我々の生活や産業の基盤となる公共施設を「社会資本」と呼び、「社会資本ストック」とはその整備量を指す。「公共投資」はこの社会資本を整備するための投資のことだ。

内閣府の国民経済計算によると、わが国の社会資本ストックは2009年末で335兆円に達しているが、公共投資額は1996年の32兆円をピークとして減少し、09年には16兆円と半減している。

根強い「公共投資悪玉論」の風潮の中、わが国の公共投資予算は年々縮減傾向をたどってきた。


■公共投資水準は欧米諸国並みに低下している

公共投資削減の根拠の一つとされてきたのが「欧米諸国に比べ公共投資の対GDP比率が高すぎる」というもので、たしかに90年代のわが国の同比率は6%台と主要先進国の中でも際立って高い比率を示していた(図表)。

しかし08年には3.0%と欧米諸国とほぼ同等水準にまで低下。公共投資額では、96年と08年を比較すると、イギリスが約2.8倍、アメリカが約2倍、最も抑制的なドイツですらほぼ横ばいの中、わが国は前述の通り半減している。

なお、欧米諸国に比して地形が急峻で可住地面積が狭く、世界の主要地震の2割が集中し自然災害が多いというわが国の事情を勘案すると、こうした単純な国際比較の妥当性にも疑問は残る。


■老朽化する社会資本の維持管理問題

ところで最近注目を集めているのが、老朽化した社会資本の維持管理問題だ。建築物や橋梁等の耐用年数は長くておおむね50年であり、高度経済成長期に大量に整備された社会資本が今まさにその耐用年数の限界を次々に迎えようとしている。

国土交通省の試算では、今の公共投資額が横ばいのまま従来通りの維持管理・更新を続けた場合、2037年に維持更新費が投資可能総額を上回る。しかし社会資本の新設を一切停止するわけにはいかないため、公共投資抑制を続ける限り、維持更新の破綻はもっと近い将来に訪れると思われる。


■現在の公共投資水準に本当に問題はないか?

公共投資の過度の抑制による橋梁等のインフラ崩壊を80年代にいち早く経験したアメリカでは、社会資本の危機についての認識が深まった。

オバマ大統領は今年1月の一般教書演説で、「壊れかけた道路や橋、エネルギー効率の悪い送電網、不完全なブロードバンドネットワーク」が中小企業の経済活動を抑制しているとして、大がかりなインフラ再構築の必要性を強く訴えている。

こうした世界の動向を鑑み、わが国においても、従来より指摘されている「優先すべき公共投資の厳格な選別」や「財政再建全体像への配慮」はもちろん踏まえたうえで、「選択と集中による施設の統廃合」「更新しない施設の選別」「廃棄までのライフサイクルコストの重視と長寿命化」「重複する機能共有による全体量削減」といった視点も加え、現在の公共投資水準に本当に問題はないか再度検討してみる必要があろう。(吉村謙一)