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世論調査の信憑性は? 多数意見を疑ってみることも大切(2012年6月)
主席研究員 島田 清彦
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■首相交代の恒例化で世論調査が増加?

最近、テレビや新聞等のマスメディアで世論調査の結果を見聞きする機会が増えたように感じる。実際、2006年の安倍内閣以来、毎年の首相交代が恒例化しており、内閣支持率などの世論調査が頻繁に行われるようになったのではないか。

4月の世論調査では、野田内閣の支持率が昨年9月の内閣発足以来、赤信号が灯ると言われる30%を初めて切った。この内閣支持率や与党支持率は信用に値するものか、やや疑問だ。実施主体により10~20ポイント程度の乖離が散見されることもあり、40%と60%では全く印象が異なってくる。なぜ、このようなことが起こってしまうのか。


■「世論調査」とは?

世論調査は、特定の社会集団(母集団)の構成員について世論の動向を明らかにする目的で行なわれるもので、無作為に抽出された一定数の人々(標本)に質問して回答を収集する標本調査として行われている。

マスメディアの大半の世論調査は、コンピュータで乱数計算を基に電話番号を発生させて電話をかけ、応答した相手に質問を行う「RDD方式(乱数番号法)」が採用されている。


■マスメディアによる世論調査の問題点

  • 標本数が少なく標本誤差が大きくなりやすい。母集団が1億強に達するのに、約1千標本のデータで判断することにやや無理がある。なお、内閣府の世論調査は「調査員による個別面接聴取」であり、社会意識に関しては1万人、個別政策は3千人を標本数として調査が企画されている。
  • 調査主体であるマスメディアへの印象の違いにより回答結果が変わる懸念がある。
  • 調査時の口調の違いや質問の内容、質問の順番なども回答に影響を与えやすい。また、特定の施策や党に批判的な回答を期待しているような、いわゆる決め打ち的な質問が散見される。
  • 調査員との対面による回答の場合と比較して、あまり熟慮されずに回答される懸念がある。
  • 携帯電話しか持たない若い世代の考えを反映できていない。
  • 個別データの回答数や標本の属性(性別・年代別等の構成)がほとんど公表されていない。

■マスメディアは世論を誘導しているのか?

我々はマスメディアの影響を受けやすい。マスメディアが世論を誘導しているとまでは言わないが、結果的にそのようになりがちであり、注意が必要だ。

支持・不支持、賛成・反対など、どちらかに傾きかけた世論調査の結果を何回か見聞きすると、無意識のうちに多数派の意見に同調したり、勝ち馬に乗ったりする人が増えてくる、いわゆる「バンドワゴン効果(*)」が働きやすい。

*ある選択が多数に受け入れられているという情報が流れることで、その選択への支持が一層強くなること。

消費税率引き上げや原発再稼働、TPP締結の是非など、難しいテーマに関する世論調査も頻繁に実施されているが、結果はあくまでも参考程度にとどめるべきものであり、鵜呑みにしてはいけない。

数年前の憲法改正に関する世論調査では、憲法を「よく知っている」は僅か数%、「少し知っている」は約40%に対して、「ほとんど知らない」は50%強に及んでいた。回答者の認知度の低さを考慮せず、改憲について賛成・反対の数値をそのまま公表することは、適切とは言えないだろう。

官民を問わず組織が発表する情報は、何らかの意図をもって編集されるのが普通である。良い意味でのクリティカル・シンキング(批判的思考)を実践し、情報の信憑性について素直な疑問を持つ習慣を身につけることが必要だ。(島田清彦)