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完全失業率にみる経済指標の落とし穴(2013年5月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■完全失業率とは?

完全失業率は「完全失業者÷労働力人口」で表されるが、分子の完全失業者は「仕事がなくて少しも仕事をしなかった者のうち、就業が可能でこれを希望し、かつ仕事を探していた者、および仕事があればすぐ就ける状態で過去に行った求職活動の結果を待っている者」のことである。また分母の労働力人口は、「15歳以上の人口(生産年齢人口)から、学生、専業主婦、年金生活者など、生産活動に従事しない非労働力人口を差し引いた人口」のことで、就業者(月末の1週間に1時間以上仕事をした者)と完全失業者の合計からなる。

これを図式化すると以下のとおりである。

図1

■完全失業率の低下は景気の回復?

それでは、完全失業率が低下した場合、景気は回復とみてよいのだろうか?そのあたりを考えてみたい。

完全失業率が下がるには、分母を大きくする(労働力人口の増加)か、分子を小さくする(完全失業者の減少)かのどちらか、またはその両方が必要である。ところで、上記2つの要因のうち、完全失業者の動きに関しては少し考慮する必要がある。

完全失業者が就業した場合、労働力人口全体のパイは変わらず、その内訳だけが変わることから、完全失業率は低下する。しかし、例えば、「仕事を探していたが、不況などにより自分が希望する条件の仕事が見つからない」という理由で就職を諦めた人は完全失業者(分子)から除かれる。また、労働力人口(分母)からも除かれ、その結果、この場合においても完全失業率は低下する。

具体例として、「就職活動を行っていた主婦が働くのを諦めた場合」などが考えられるが、このケースは必ずしも景気の回復とはいえないだろう。


■どちらが大きな労働力?

就業者か完全失業者かを決める際の「仕事をした、または仕事をしなかった」の判断は月末の1週間で行われる。したがって、極端な例だが「1か月のうち、月末の1週間に少しだけ仕事をした人」が就業者となる一方で、「月末の1週間は全く仕事をしなかったが、月の中旬に仕事をした人」が失業者となってしまう場合がある。この両者ならば、後者がより大きな労働力となる可能性が高いわけで、この完全失業率という指標が完全に実態を映しているとは言い難いと思われる。


■落とし穴に注意が必要

今回、完全失業率を例に見てきたが、完全失業率の動きと景気の変動は必ずしも一致しない。また、数値が実態と懸け離れているケースも存在するということがわかった。そのため、表面上の動きだけを見て短絡的に景気を判断すると、落とし穴に陥ってしまうこともあるだろう。

一般的に、経済指標は景気を判断するための有効な材料となるが、その際に「数値変動の根拠を正しく把握する」、「変動に特殊要因が絡んでいないかをみる」、「類似する他の指標も合わせて検討する」など多方面から検討を加えることを心がけるべきである。(丸尾尚史)