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本格的な「クルーズトレイン」時代の到来で求められる地域の姿勢 (2015年4月)
副主任研究員 吉村 謙一
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■2017年に登場する「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」

1989年から26年間にわたり運行を続けてきたJR西日本の寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大阪~札幌間)が、車両の老朽化等により2015年3月12日発の便をもって運行を終了した。最後の雄姿を目に焼き付けようと駅や沿線に大勢集まった鉄道ファンの姿も記憶に新しい。

惜しまれつつ引退した同特急と入れ違うように、JR西日本は「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレスみずかぜ)」を2017年春から運行すると発表した。瑞風は「クルーズトレイン」と呼ばれる周遊型の豪華寝台列車で、京阪神地区から山陰、山陽エリアで運行され、運行中に沿線での立ち寄り観光を実施する予定だ。

トワイライトエクスプレスの名を一部に受け継ぐ瑞風は一見直系の後継列車のようにも見えるが、両列車の性格は実はかなり異なる。現時点では瑞風の周遊ルートや料金等の詳細が明らかにされていないため、クルーズトレインの名を日本で初めて名乗り瑞風も参考にしているJR九州の「ななつ星in九州」(2013年運行開始)と比較する。


■クルーズトレインの競合は豪華客船

とくに違いが目立つのがその料金で、トワイライトエクスプレスは1泊2日で1名当たり26,350円~46,090円であったのに対し、ななつ星は3泊4日で480,000円~750,000円と、日程の違いを考慮しても両者の料金体系の違いは明らかだ。

料金設定でななつ星が競合相手と想定しているのは実は豪華客船だ。日本を代表する豪華客船「飛鳥Ⅱ」のある3泊4日のクルーズの料金は168,000円~798,000円で、最高価格帯はななつ星とほぼ同じである。豪華客船は様々な港に寄港して乗客が周辺を観光したのち次の港を目指すが、クルーズトレインは、客船を列車に、港を駅に置き換えたのがそのコンセプトなのだ。


■クルーズトレイン時代に求められる地域の姿勢

前述したとおり瑞風の情報はまだ限定的にしか明らかにされていないが、関係者のインタビューによると、「比較的リーズナブルな運賃・料金」にして「3泊4日といった長い期間走り回るイメージではない」等の言及もなされている。ななつ星とはまた違ったコンセプトの豪華列車となるとみられる瑞風は、JR西日本の説明では「地域と一体となった観光振興の推進」を目指すという。

2017年にはJR東日本もクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)」の導入を予定しており、わが国は本格的なクルーズトレイン時代を迎える。先駆けとなったななつ星の場合は、九州全体が一体となって地域の住民が自ら積極的に乗客のおもてなしに動いたことが、今も平均抽選倍率22倍でリピーターも多く、海外19か国の300人近い外国人乗客も迎えるような人気列車となった大きな要因だという。

奈良県内路線における瑞風の運行や停車の有無はまだ不明だが、クルーズトレインによる観光振興効果を最大限に発揮するために今後地域に求められるのは、住民が自分たちの地域を誇りに思い自らおもてなしの精神を発揮する当事者意識と自発的な姿勢であろう。(吉村謙一)


図1