一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
文字サイズ

「待機老人」の増加により、急がれる終の棲家への対策(2015年7月)
上席主任研究員 橋本 公秀
PDF版はこちらからご覧いただけます。

■近年、急激に増加した「お泊りデイ」

介護保険制度には、利用者が宿泊できるサービスとして「ショートステイ」等があるが、慢性的に施設が不足している。そのため通所介護(以下、デイサービス)事業者が、任意で行う「お泊りデイ」という宿泊サービス(介護保険適用外)で補完しているのが実態である。

お泊りデイは、要介護者を在宅でケアしている家族の負担を軽減する効果があり、利用を求める声が多いことから、ここ数年で急激に増加した。

しかし、お泊りデイには、国が定めた基準がなく一部の事業所で利用者が不当な待遇を受けるケースも発生。2015年4月30日に厚生労働省は、利用者保護の観点から「指定通所介護事業所が提供する宿泊サービス(お泊りデイ)に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を公表した。


■「お泊りデイ」に対する認識のズレ

ガイドラインでは、宿泊サービスの提供を利用者の心身の状況、あるいは家族の都合や負担軽減のために緊急時または短期的な利用に限ると位置づけた。

また宿泊サービスの利用が4日以上連続する場合、事業者は、具体的なサービス内容を記載した「宿泊サービス計画」を作成し、本人・家族に説明して同意を得るよう釘を刺している。

さらに部屋は基本的に1室1人、相部屋にする場合は人数を4人までとし、パーテーションや家具などでプライバシーを確保し、男女が同じ部屋で宿泊することがないようにする等、安全面に配慮した内容となっている。また、従前は、万一事故が起こっても報告の義務はなかったが、ガイドラインでは、利用者保護と事故報告の仕組みを制定し、都道府県等への届出制を導入した。

ガイドラインの制定により、宿泊サービスの最低限の質が担保されることとなったが、宿泊を緊急時または短期的な利用に限るとする内容では、中長期的に施設を利用したい入所希望者が依然として多く残る懸念がある。


■介護が必要な高齢者と家族に立ちはだかる壁

お泊りデイは、特別養護老人ホーム(以下、特養ホーム)の空きを待つ方の受け皿として利用されるケースも多い。

4月からの介護保険法改正により特養ホームへの新たな入所対象者を、原則要介護3以上へ引き上げたため、特養ホームの空きを待つ要介護2以下の方とその家族には、困惑が広がっている。

特養ホームは介護保険が利用できる公的な施設で、民間の有料老人ホームに比べ経済的な負担は軽い。

そのため介護保険制度が始まった2000年から入所希望者が増え、入所待ち人数は52万4千人(2013年度)に拡大している。これは社会問題となっている保育所の「待機児童」の約4万3千人(2014年10月)と比べ、はるかに多い。入所までに3~5年待ちということはザラで、入所待ちが常態化し「待機老人」という言葉も生まれるほど深刻化している。

また既に入所している要介護2以下の方はそのまま利用できるが、待機老人の中に含まれる要介護3以上(34万5千人)の方との間に、法改正により制度間格差が生じる結果となっている。

施設の数が圧倒的に足りない状況が見て取れる中、今までは認知症の予防効果も期待できたお泊りデイの利用を制限すると、要介護度のレベルが上がり、重度化した高齢者を増やすことにならないか?

人口の約4分の1が65歳以上で、10年後には団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」も控えており、人生の最終章をどうすれば穏やかに暮らせるのか、残された時間は少なく、終の棲家への対策が急がれる。(橋本公秀)