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人はなぜ観光するのか(2015年9月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■観光とは

観光とは、「仕事や家事、学業など社会での普段の生活を営む上で必要な時間を除いた時間(自分や家族等が自由に使える時間)に、普段生活している場所から別の場所へ移動し、その場所で人との交流や経験、娯楽などを行うこと」をいう。言い換えると、非日常性の追求のことである。


■観光へ向かわせる要因

人を観光へと向かわせるためには、動機づけ(要因)が必要であるが、その要因は内的な「発動要因」と外的な「誘因要因」の2種類があるといわれている。

発動要因とは、「休息する」「リラックスしたい」など、日常生活から抜け出して珍しい体験や新しいことをしたいと考えることであり、誘因要因とは、「魅力ある観光地や温泉」といったように観光地が持つ特性や魅力、イメージ等のこと。この2つの要因が相互に作用することで、人は観光へと向かう。

また、人の心には、その程度に違いはあるが、「新奇的欲求」と「逃避的欲求」という非日常的欲求が存在する。そして、2つのうちどちらが強くなるかは日常生活で感じている刺激の強さに依存すると考えられている。したがって、普段の生活で弱い刺激しか受けていない場合には、そうした状況に対する退屈感や閉塞感が強まり、新鮮な体験や刺激を求める「新奇的欲求」を増やそうとする。一方、日常生活で普段から強い刺激を受けている場合には、休養や気楽さを求める「逃避的欲求」が強くなる。したがって、人それぞれの生活の状況等の違いによって、求める非日常性の欲求は異なってくる。


■阻害要因

一方、観光を阻害する要因は、①"そもそも旅行に興味がない"、"価値観が見いだせない"といった「個人的な要因」、②"家族や同伴者との休暇が合わない"などの「対人的な要因」、③"時間的、金銭的に難しい"といった「構造的な要因」の3つに大別される。


■調査結果からみた動機と阻害要因

実際の旅行(観光)の動機を、公益財団法人日本交通公社の「旅行年報」(2014年)からみると、「国内宿泊旅行、海外宿泊旅行(いずれも法人支出の旅行を除く)をしてみたいと思う動機」は「旅先のおいしいものを味わうため」が56.0%で最も多く、以下、「ストレスからの逃避、リラックスのため」(54.9%)、「自然を鑑賞、体験するため」(51.4%)、「思い出を作るため」(44.8%)、「同行者との絆を深めるため」(40.2%)と続く。一方で、旅行を阻害する要因は、「休暇が取れない」(39.6%)、「家計の制約がある」(22.6%)、「何となく旅行しないまま過ぎた」(21.8%)、「家族などと休日がうまく重ならない」(20.7%)の順に多い。


■おわりに

以上の事から「新奇的欲求」と「逃避的欲求」のどちらかが高まり、阻害要因が取り除かれれば人は観光に向かうことがわかる。

近年、インバウンド(外国人観光客)が増えている。増加は、観光関連業界や行政など受入側の努力の賜物だが、阻害要因が払拭されたことも大きい。すなわち、「長期休暇(中国の春節祭や欧米のロングバケーション等)」が元々存在するなかで、「高いクオリティを持つ日本製品に対するニーズの高まり」(個人的要因)や「自国の経済成長等による生活水準の向上」(構造的要因)により阻害要因がなくなった形だといえる。(丸尾尚史)