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好業績の継続はステークホルダーとの信頼関係構築にあった(2016年1月)
主席研究員 丸尾 尚史
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企業が事業を展開するうえで関わる人をステークホルダーと呼び、株主、社員、取引先、地域住民などがこれに含まれるが、企業はこのステークホルダーとうまくコミュニケーションをとりながら成長し、利益を実現していくことが求められる。

ステークホルダーとの共存共栄で業績を伸ばしてきたのが長野県伊那市に本社を置く寒天の製造会社「伊那食品工業株式会社」である。同社は寒天のトップメーカーで、1958年の設立から2005年まで48期連続で増収増益を達成するなど、着実に成長を続けてきた。徹底した新商品、新分野の開発や新しい市場や需要の創出に注力してきたことはさることながら、その根底にある「いい会社をつくりましょう」という同社の社是が好業績の大きな要因となっている。

同社の塚越寛会長は著書「リストラなしの『年輪経営』」で「会社は、社員を幸せにするためにある。そのことを通じて、いい会社を作り、地域や社会に貢献する。それを実現するためには『永続する』ことが一番重要だ」と述べている。つまり、木の年輪のように少しずつだが前年より確実に成長する経営(年輪経営)こそが同社の理想形ということである。また、「いい会社を作りましょう」とは、業績面や財務面など経営上の数字という意味ではなく、同社を取り巻くステークホルダーすなわち、「社員」「同業者」「下請企業、仕入先」「顧客(消費者)」「地域住民、地域社会」にとっていい会社であることを目指すものだった。


■同社取り組みの一例
●社員

企業は企業で働く社員の幸せのためにあるから人件費はコストではないと考え、給料、ボーナスを毎年アップさせてきた。また、リストラも行わない。こういった環境の下で社員は安心して働くことで、個人の力を最大限に発揮できている。


●同業者

「敵を作らない」という方針を掲げ、そのためにはオンリーワン企業であることが必要だと考えている。そこで、今までこの世になかった商品や他社では真似のできない商品で、かつ顧客のニーズが高い商品を作ることに注力している。


●下請企業、仕入先

自社の製造ラインの前工程や外注加工を行う会社に対し、価格の引き下げなど強い立場を利用して無理な注文を強いることは一切せず、下請企業とともに成長していくことで、お互いが「WIN・WINの関係」を築き、それによって互いの絆を深めている。


●顧客(消費者)

化粧品や医薬品など他業界にも目を向け、どうしたらお客様に喜んでいただけるかを常に考えながら顧客が感動するような新しい付加価値商品を生み出したことで顧客の満足度を高めている。


●地域住民、地域社会

社員による周辺の清掃活動や工場の無料開放、歩道橋の寄付のほか音楽祭や駅伝大会への支援などの活動も行っている。また、東京へ本社を移転させることなく、地元とともに歩むことで地域に大きく貢献している。


同社はこういった数々の取り組みによりステークホルダーとの信頼関係を構築した結果、増収増益を長きにわたり続けてくることができた。これまで、同社には大手自動車メーカーをはじめ国内外の企業が視察に訪れているように、企業経営において同社に学ぶ事項は多い。(丸尾尚史)