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社会を急激に変化させる人工知能(AI)技術の進化 (2016年4月)
副主任研究員 吉村 謙一
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2016年3月、米グーグル傘下の英企業ディープマインドが開発した人工知能(AI)「AlphaGo(アルファ碁)」が、世界トップ級のプロ囲碁棋士であるイ・セドル九段との対局で4勝1敗と勝ち越した。チェスや将棋に比べ囲碁の対局の展開パターンは10の360乗と桁違いに多く、人間の優位があと10年は続くと見られていただけに、この結果が世界に与えた衝撃は計り知れない。

1997年に当時最強のチェス選手カスパロフを破って有名になった米IBMの「ディープブルー」は、打ち手を全て虱潰しに計算し最善手を選ぶという力技で勝利を収めた。一方、囲碁は前述の通り展開が膨大すぎて同様の手段は使えなかった。

そこでAlphaGoは、人間の脳の構造をソフトウェア的に模倣した「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる先端技術を用いて開発された。実はAlphaGoには囲碁のルールは組み込まれていない。過去にプロ棋士が打った3千万種類の局面の画像データを読み込み、その中から自らパターンを発見して学習し、さらに自分自身との対戦を何回も繰り返す「強化学習」を行うことで人間の直感に近い能力を手に入れたのである。AIがディープラーニングによって過去の経験から学習して最適解にたどり着くそのプロセスは、まさに脳の機能そのものともいえる。

AlphaGoは従来の囲碁ソフトのような囲碁に特化してプログラムされた専用品ではなく、あらゆる問題に応用できる汎用的なAIである。この技術は、例えば病気の画像診断、医薬品の開発、ロボットによる店頭での接客、自動運転車の周辺状況判断、経済情勢の分析、金融取引の判断、経営や人事にかかる決定、果ては戦争まで、学習用のビッグデータが揃いさえすればありとあらゆる戦略的な判断に応用が可能だ。

身近な所では、AIの画像認識能力は検索エンジンの画像検索機能などに、音声認識能力はスマホの音声入力システムなどにすでに利用されている。

企業ではファナックが、自社製工作機械やロボットの動作の最適化や複数機械の協調による連携などをディープラーニング技術で自動学習させる研究に着手。トヨタも2015年11月、米シリコンバレーにAIの研究所を設立し今後5年間で10億ドルを投資すると発表した。AIを活用して事故を起こさず幅広い層が利用しやすい車を研究するほか、「AIや機械学習の知見を利用した研究」を加速させるとしており、豊田章男社長は「AI技術とビッグデータを結びつけることで自動車以外の新しい産業を創出できる」と述べた。祖業の織機から自動車に軸足を移したように、同社はAIを鍵にして自動車の次のビジネスを真剣に模索している。

ディープラーニングを用いたアルゴリズムの進化により、15年にAIの能力は人間の画像認識精度を超えるという歴史的瞬間を迎えた。そのわかりやすい一般向けデモンストレーションが今回のAlphaGoの勝利であり、今後もディープラーニングと強化学習の組み合わせで様々な技術的ブレークスルーが驚異的な速さで進むことは間違いない。

15年12月に野村総合研究所が「10~20年先には日本の労働人口の49%分の仕事がAIやロボットで代替可能」というレポートを発表したが、10年後の我々の社会の風景は今とは大きく異なるものとなるだろう。高度な判断が必要とされる業務でもAIの発展で機械による代替が進む中、各個人は人間にしかできない能力を伸ばし、AIをツールとして活用するスキルを身につける必要がある。企業はAI技術の進化に常にアンテナを張り、社会の急激な変化をチャンスとして活かし次のビジネスを模索する姿勢が求められよう。(吉村謙一)