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組織を「変革」するには(2016年8月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■組織変革の必要性と阻害要因

刻々と変化する環境に適応し企業が永続するための取組みとして「変革」の必要性が叫ばれて久しい。しかし、多くの企業では変革がうまく進んでいない。その原因のひとつに以下の考え方があるのではなかろうか。

企業は、内部要因や外部要因を見直して課題を抽出し、課題克服に向けた取組みを行う。しかし、組織が新たなことや特異なことを始める際にストップをかけるのが、「過去に例がない」「効果が出るのか?」といった「まず否定ありき」の考え方である。こういった慎重な考え方が組織の「変革」を阻害しているケースも多い。

■阻害要因を排除した成功例に学ぶ

「否定ありき」とは真逆の考え方をもって「変革」に取り組み成功した企業が、DOWAホールディングス株式会社(旧社名:同和鉱業)である。

同社は、非鉄金属の製錬、加工、環境・リサイクルを主たる業務とする老舗企業。当時同社では利益が伸び悩んでおり、社内の事情という内部要因と取り巻く環境の変化という外部要因の両面で問題を抱えていた。

こういった状況のなかで課題とされたのが、社内に存在するさまざまな「壁」だった。壁とは文字通り組織に存在する物理的な壁のほか、組織や人の心のなかにある「目に見えない壁」も含まれた。同社会長でCEO(当時)だった吉川廣和氏は、まずは社内にある本物の壁を壊し、それをステップにして目に見えない複数の壁を壊すことに着手した。同社に存在した「目に見えない壁」とは以下の4つである。

(1)組織の壁(営業部・管理部・製造部・財務部などの縦割りの壁)

(2) 上下の壁(現場と管理職、社員と役員、本社と工場などの横割りの壁)

(3) 社風や風土の壁(悪い意味での官僚体質、形式主義)

(4) 心の壁(自己保存という人間が本来持っている心の問題、人間関係など)

壁の破壊には反対意見も多かったが、「やってみなければわからない」「不都合が生じたら元に戻せばいい」という考え方で断行した。「変革」の実行後、社長室・会長室のドアは通常、開け放たれている。事務室には遮る壁が全くない。同社では目に見える壁と目に見えない壁の両方を壊したことで、社内の雰囲気がよくなり、また無駄な仕事、不要な経費を省くことができたという。数字的にみても経常利益が7年で10倍、売上高経常利益率が同4倍になるなど確かな成果が上がっている。

■おわりに

「壁を壊す」という大胆な行為もさることながら、注目すべきは実行に向けての考え方である。組織にはびこる悪しき慣習を排除することは、簡単なことではない。そのため、「変革」を成し遂げるには当事者である経営層や組織に関与するステークホルダー(利害関係者)はリスクを取る度量と多大な忍耐力等が要求される。だからといって、結果を恐れて動かなければ何も変わらない。変わらなければ進歩も少なく、改善もされない。

「変革」は最初からうまくいかなくて当たり前、失敗もある。そこで、「まずやってみる、そして、判断し駄目なら戻す」、あるいは「別の方法を検討する」といった考え方は、「変革」を成功に導くための有効な手段のひとつになり得るのではなかろうか。(丸尾尚史)