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RESASの利活用による地域の「稼ぐ力」強化に向けて(2017年4月)
主任研究員 吉村 謙一
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現在全国各地で取組中の「地方創生」においては、「情報支援・人材支援・財政支援」を3本柱として国から地方への各種支援が行われている。そのうち情報支援の目玉として、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部と経済産業省が連携して開発し2015年4月から提供しているのが「地域経済分析システム(RESAS(リーサス))」である。

RESASは、地方創生のデータ利活用の入口として、地域経済に関する官民の様々なデータ(例:国勢調査、経済センサス、農林業センサス、商業統計、NTTドコモ、VISAカードなど)を、地図やグラフ等で分かりやすく「見える化」するシステムのことで、他自治体とのデータ比較や合算等も簡単な画面操作のみで可能としており、データ検索やグラフ作成のコストを大幅に削減することができる。RESASはインターネット上で無料公開されており、誰でも自由に利用できるのも特長だ。

人間が陥りがちな「勘・経験・思い込み」(頭文字から『KKO』とも呼ばれる)によるこれまでの延長線上の惰性的な意思決定ではなく、客観的なデータに基づき地域の現状や課題を把握した上で行う政策立案(Evidence-Based Policy Making)への転換に向け、官民の区別なく広くRESASの利活用がなされるよう、全国各地で普及に向けた様々な試行錯誤が行われている。

例えば自治体におけるRESAS利活用事例としては、兵庫県豊岡市では、市内主要産業である「かばん製造業」をRESAS等を用いて分析し、全国一の出荷額にもかかわらず他産地よりも労働生産性が低いことを把握。『豊岡鞄(かばん)』の付加価値を高めるために、ブランド力の強化と海外販路拡大を図る出口戦略に結びつけた。

教育の分野でも、例えば金沢大学では、RESASを活用してデータに基づいて地域の現状・将来を分析し課題解決を学ぶ講座を昨年開講。新入生の必修科目とし1,000人以上の学生が履修している。

ビジネス用途として民間企業が活用することも考えられる。例えば「人口マップ」「全産業の構造」「稼ぐ力分析」などのマップを用いて自社事業の対象エリア内の現状把握を行うことで、地域の実情を踏まえた計画策定や人員配置等の検討材料にできる。また携帯電話データを用いた「流動人口メッシュ」「外国人メッシュ」や電話帳データを用いた「事業所立地動向」等のマップからは、出店場所の検討材料を得ることなども可能だろう。「滞在人口率」「目的地分析」「流動人口メッシュ」などのマップを組み合わせれば、観光面でのビジネスプラン検討の材料となろう。

国としても、インターネット上で無料のRESAS eラーニングシステムの提供を開始したり、インターネットエクスプローラやタブレットでの閲覧対応開発を進めるなど、ユーザーの利便性向上に向けた様々な取組を継続的に行っている。

地域経済循環を好転させ地域の「稼ぐ力」をより強化するために、自治体のみならず民間企業や市民の間でもRESASの利活用を進め、「RESASを共通言語とした地域の産官学金労言の連携」をさらに深めることが今後望まれよう。(吉村謙一)


RESASの画面構成