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「地方版 MaaS」実現の可能性を探る (2020年4月)
主任研究員 前田 徹
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複数の交通機関に跨るルート検索・予約・決済を一括で行える MaaS(マース) (=Mobility as a Service) は、 人のスムーズな移動を支援するサービスとして、 高度化・普及が期待されている。 国土交通省は MaaS を 「大都市型」 「大都市近郊型」 「地方都市型」 「地方郊外・過疎地型」 「観光地型」 の5類型に区分しており、 地方の交通分野の諸課題においても有効なソリューションとして期待を寄せている。 「地方版 MaaS」 実現への取組について考察を試みた。

MaaS の概念は、 フィンランドの首都ヘルシンキにおける交通渋滞や路上駐車等の都市環境問題を解決すべく、 マイカー依存からの脱却、 公共交通機関の利用促進を図るために考案されたサービス 「whim(ウィム)」 が起源とされる。 取組度合いによりレベル0~4の 5 段階に定義され、 日本国内では主に、 異なる鉄道・バス会社等に跨るルート・料金検索が可能な 「レベル1」 程度のサービスが普及している (下図参照)。


図

一方、 地方の交通の現状としては、 ①マイカー依存の高まり、 人口減少、 運転手の担い手不足による鉄道・バス路線の便数削減・廃止、 ②自治体による支援負担の増大によるコミュニティバスの継続・維持困難、 ③交通弱者 (高齢者) の増加などが挙げられ、 交通機関の維持・運営コストをいかに抑えつつ、 不便さを解消するかが課題となる。

そこで、 例えば自治体内をくまなく巡回し、 待ち時間・所要時間の長い、 1 日数便のコミュニティバスの運行を改め、 ①最寄りの鉄道駅と地域の主要地点のみを効率よく結ぶ速達性に優れた幹線バスを運行、 ②同路線の停留所と周辺エリアをオンデマンド型の小型モビリティや自家用有償旅客運送でカバーするなど、 移動ニーズの量と範囲に応じた効率的な交通体系に見直すことが考えられる。

幹線バスは朝夕の鉄道駅までの通勤・通学客の送迎だけでなく、 ダイヤ・ルートを調整し、 駅から自治体内の事業所、 医療機関、 福祉施設等へ向かう従業者、 通院患者、 施設利用者の送迎にも活用。 さらに、 小型モビリティも含めて農作物の集荷、 直売所への輸送等にも利用するなど、 限られた車両・人材を地域の様々な輸送ニーズに活用し、 地域の事業者、 医療機関、 福祉施設等が事業費を一部負担することで、 運賃を低く抑え利用促進を図る。 また、 地域の交通手段を持続可能なものとするには、 自家用有償旅客運送等による住民自身の主体的な関わりも重要と考える。

将来、 自動運転モビリティが実用化されれば、 さらなるコスト低減、 利便性の向上が図られるだろうが、 実現へのハードルはなお高い。 まずは鉄道・バス会社等と沿線自治体がコンソーシアムを形成し、 MaaS による連携を含めた効率的な交通体系を構築するとともに、 「地域の足 (交通手段) は地域で守る」 という住民・事業者の主体的な取組が、 「地方版 MaaS」 の実現には必要となるのではないだろうか。