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ウィズコロナ・アフターコロナ時代の人々の志向変化への対応 (2020年6月)
主任研究員 吉村 謙一
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新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界中の社会や経済が大きな打撃を受けている。有効なワクチンや治療薬が開発され普及するにはまだかなりの時間がかかると見込まれ、また別の新たな感染症が発生した場合のパンデミックリスクも今回再認識されたところであり、国も「新型コロナウイルス感染症拡大の前のビジネスモデルに完全に戻ることは難しいと認識すべきで、感染拡大防止と経済活動を両立する新たな手法、新たなビジネスモデルの検討が必要」との見方を示している(出典:2020/5/1開催 経済産業省「産業構造審議会・第3回成長戦略部会」論点ペーパー)。

こうした状況下、我々の社会生活や経済活動は大きな変容を遂げざるを得ず、例えばすでに顕在化している新たな動きとしては、3密を避けて余暇を過ごせるとしてアウトドアやキャンプのニーズが高まっている。

新潟県三条市に本社を置く(株)スノーピークは高品質のアウトドア製品の製造で有名なメーカーで、年商は140億円を超え(2019年12月期)、韓国・台湾・米国・英国などへも海外展開している。同社が5/14に発表した2020年12月期第1四半期(1-3月期)の決算説明資料によると、前年同期比で売上高+2.7億円(+9.8%)、経常利益率▲0.4%(+0.4ポイント)と、新型コロナウイルスに翻弄された1-3月期でも着実に業績を上げ、内訳では特にEC(ネット販売)で売上高を+0.4億円(+52.5%)伸ばしている。

4月の緊急事態宣言発出により同社でも多くの店舗で臨時休業せざるをえない厳しい状況の中、休業店舗の人員106名を素早くオンライン接客に移行させ、自社ECサイトでのチャットによるリアルタイム接客や、インスタライブ配信による商品提案などの新たなオンライン接客スタイルを試みたことで、4/11以降の1か月間でECでの購入率を約8割増加させた。コロナ禍を機にリアルからオンラインに機動的にシフトすることにより、人々の志向変化を取り込んで成果に結びつけたといえる。

ウィズコロナ・アフターコロナの社会では、人々に様々な志向の変化が起こると予想される。例えば、郊外志向(人口密集の都市部を避ける)、安全志向(感染症を避け安全・健康重視な行動を選択する)、在宅生活充実志向(外出自粛やテレワークの拡大により在宅時間を充実させようとする)などがその一例だが、アウトドアやキャンプはこうした志向性にマッチしており、ベランピング(ベランダでのキャンプ)などの自宅アウトドアニーズも含んで今後も拡大するだろう。

ウィズコロナ・アフターコロナの時代においては、人々の志向や取り巻く環境の変化が大きいため、それに素早く対応し、危機に強い新たなビジネスモデルへの転換を積極的に検討する必要がある。事業規模を問わず、冒頭に述べた「従前のビジネスモデルに完全に戻ることは難しい」という前提を各事業者が踏まえたうえで、変化への対応を進めたい。


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