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テレワークの効用を活かし、働き方改革に向けた意識変革を (2020年7月)
事務局長代理 上席研究員 中原 嘉寛
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新型コロナウイルス感染症の拡大に対し、企業の取った事業継続手法の一つにテレワークがある。

テレワークについて、同感染症発生以前の令和元年9月末時点で、総務省が実施した興味深い調査(「令和元年通信利用動向調査」)がある。本調査時点のテレワーク導入企業は、適した仕事がない等の理由で20.2%と一部に止まっていた。しかし、導入企業が少数とはいえ、効果に対する質問に、「非常に効果があった、またはある程度効果があった」との回答割合は87.2%あった(図1)。

また、テレワークの導入・未導入企業別の労働生産性においても全業種全体で、導入企業は未導入企業に比べて約1.3倍高い結果が出ていた(図2)。

同感染症の拡大が契機となり、テレワークを新規採用した企業が多かった。テレワークには情報漏洩の懸念等欠点もあるが、導入企業では感染症の拡大抑制に効果があったと共に、総務省の調査と同様に効率性(生産性)等においても効果が上がった事例もあったのではないかと思われる。

ここではテレワークの体験を機に「働き方改革」につながる仕事に対する意識を再検討してみたい。

職場環境の改善などの「魅力ある職場づくり」を目指す「働き方改革」は、家事・育児参加が進まない背景として長時間残業を課題に挙げている。長時間労働を前提とした職場環境に対し、企業側には適切な仕事量への削減と、一方、従業員に対しては働く意識や行動の変革を求めている。その変革を求める従業員の意識と行動とは、仕事が終わらなければ残業すればよいと考える「安易な残業依存体質」である。

「仕事中心」の考え方は大切であり延長時間を限定した時間外労働は適切であるが、勤務時間に制約がないのは問題であり、仕事そのものが安易に流れる可能性がある。人間に与えられた時間は有限であり、仕事以外にも大事なことやなすべきことがある。その例に、育児・介護・自己実現等があり、仕事以外の生活を充実させることにより、自らの生活も豊かになる。

労働時間の短縮化は、女性の就業者の増加につながり人手不足の解消になる。また、定年は延長化傾向にあるものの、時間を大事にする意識は個々人の定年後生活の充実につながる。

今般の感染症対策によるテレワークの実践で、仕事一辺倒でない生活の良さを感じられた方もおられるであろう。私事であるが、「一日中仕事に出て疲れて帰ったので家では何もできない」との言い訳の中に、「安易な残業依存体質」が巣くっているのに気付き意識を改める良い機会であった。


図