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経済指標の季節調整値の分析における留意点(2020年11月)
課長 主任研究員 秋山 利隆
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国等が公表する経済指標は、季節や社会風習等による1年を周期とした変動を有する。例えば冬の到来に合わせた暖房器具の生産や収穫時期における農業従事者の増加は、経済指標の変動要因となる。この例では鉱工業生産指数や有効求人倍率の原数値を前月と比較すると、好不調とは関係のない季節要因による増減が発生する。季節要因を排除する最も簡単な方法は前年同月比で比較することであるが、前年の数値次第で評価が変わるなど問題が多い。その問題を解決するため、主要な指標については「季節調整値」が公表されており、我々研究員はその数値を前月比較することで足もとの動向を分析する。現在日本の官公庁では米国のセンサス局で開発された「X-12-ARIMA(アリマ)」という方法が採用されている。

ところで今回のコロナ禍では、政府の緊急事態宣言やサプライチェーン毀損の影響などから季節や社会風習とは関係のないところで経済指標に大幅な変動が発生した。また過去においては、リーマン・ショックや東日本大震災についても同様の状況となった(図表)。そのような場合にも季節調整値は毎月公表されているが、この数値は信頼できるものであるのか疑問が生じる。そこでここでは、季節調整の方法を簡潔に整理した上で、現在の局面をどう評価すべきか検討してみた。

季節調整を行うためのモデル式は、季節変動のほか経済成長や高齢者比率などの趨勢、経済循環などの周期を変動要因と仮定しており、そのいずれにも該当しないものを異常値としている。X-12-ARIMAは「REGARIMA(レグアリマ)」と呼ばれる時系列モデルで異常値を推計し、その影響を除去した後、季節変動などの変動要因を推計する。そして翌年実施される年間補正において最終的な季節調整値が公表される。つまり、経済指標の大幅な変動を異常値とするかがポイントとなる。

リーマン・ショック後の経済指標の落ち込みは異常値と判定されず、季節変動などの変動要因として処理された。この結果については懐疑的な意見も多く、翌年以降の経済指標の信頼性に疑問を呈する動きもあった。一方で、東日本大震災後の落ち込みは異常値として処理され季節変動への影響は小さかった。今回のコロナ禍における経済指標の変動についての判断は来年の年間補正で数値に反映されることとなるが、異常値についてどのような判断が行われるか注目したい。

季節調整の方法に絶対的な正解がない中、X-12-ARIMAは信頼性の高いモデルであり、現在の公表データによる現状把握は十分に妥当性がある。一方で、各指標の年間補正が公表される際には再度の現状把握を行い、実態をより深く検証する必要があると考える。    

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