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中小企業にとっての「DX」と経営戦略的視点(2021年4月)
事務局次長 上席研究員 刀祢 善光
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■DXとは

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にする。経済産業省が「DXレポート(2018年9月)」で、DXとは「将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変すること」と定義し、DXに関する課題が克服されないと、2025年以降日本経済に毎年12兆円の経済損失が発生すると指摘した(2025年の崖)。それから2年半近くが経過し先進企業や大企業での取り組みが取り上げられることが増えてきたが、多くの企業ではまだ緒についたばかりと考える。

■大企業だけのDXか

「2019年版中小企業白書」ではIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の導入意向を調査したが、中小企業では54%がどちらも導入意向はないと回答し、導入しない理由では、51%が導入後のビジネスモデルが不明確なためという。

現在紹介されるDXの事例は、人材・アイデアが豊富で大規模なシステム投資を行うことができる一部企業だけとの印象がある。しかし、同白書ではIoTを導入し収集・蓄積したデータは「既存業務の改善」に使われていても(大企業73%、中小企業61%)、「商品・サービスの開発や展開」への活用は大企業でも進んでいない(大企業22%、中小企業18%)との説明がなされている。

近年のデジタル技術の進歩は業務の効率化に留まらず、既存のビジネス環境をガラリと変えうる(破壊しうる)威力を備えている。これについては大企業だけに留まらず中小企業にも大きな影響を与えるものと考える。

例えば、アマゾン・ドット・コムの宅配事業の拡大により米国内の大手量販店がいくつも倒産し、アップルの音楽配信はCD販売というビジネスモデルを縮小させた。ビジネスモデルそのものを消滅させるような大きな波は、デジタル技術により短期間で広い地域に浸透する。ビジネスシーンのスピードはどんどん加速しているのである。

■DXと中小企業の経営戦略

では、どのように対処すべきか。自社の市場に黒船がやってきたとばかりにおののいてはいられない。既存の市場に攻め込まれてあっという間に飲み込まれる可能性のあるデジタル技術であるが、逆の立場から見れば小さいシェアから一気にシェア拡大できる可能性があるのもまたデジタル技術である。従来のビジネスモデルやシステム・技術のまま変革を考えない事こそが問題なのである。

デジタル技術を活用するという点が問題を難しくしているが、事の本質は自社として「今後どうしていきたいのか、どのようなビジョンや社会貢献を目指すのか」の戦略を持つことである。その大きな目標を実現するためにどのようなシステムやIT機器を使えばよいのかを判断することがDXの本来の手順であり、戦略という根幹がぶれなければ良い改革が実現できると考える。

■勝ち残る企業となるために

DX戦略を定め組織に浸透・実現させるには、プログラミングを理解する必要はない。経営者の苦手意識がここにあるのではないかと思うが、例えば映像認識、クラウド、モバイルなどの技術によってどのようなことが実現できるかという技術を知ること、経営陣がプロジェクトの完遂のために経営資源を配分し実行に責任を持つことで実現が可能になる。目標が定まれば、大企業よりも組織がシンプルな中小企業の方がより迅速に改革が可能であろう。規模にかかわらず横一線でスタートできると言える今こそ、中小企業がDXに取組む好機である。