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利用者目線に立った「社会調査」のあるべき姿について(2021年11月)
課長 主任研究員 秋山 利隆
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新内閣発足や衆議院議員総選挙など政治面の動きが活発となる中、マスコミ各社の世論調査が盛んに報道されている。世論調査は社会調査の一つで、社会調査とは、社会に関する問題意識を踏まえて関連するデータを収集し、その収集したデータを利用して社会について考え、その結果を公表するまでの一連の過程を指す。

社会調査は「量的調査」と「質的調査」の2つに大別できる。前者は数値化できるデータをもとに調査対象を分析するもので、前述の世論調査や国勢調査などが該当する。後者は数値化できない言語により記述されたデータの内容を分析するもので、参与観察注1)などが該当する。

社会調査は、EBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)に不可欠で、観光立国を目指すための統計データ整備やコロナ禍における緊急対策のための調査など、行政機関による社会調査は増加している。また民間企業にとっても、これらの社会調査で収集したデータは、ビッグデータの構成要素として、マーケティングなどで活用する貴重な情報となっており、利用価値は高まっている。

一方で、インターネットの普及やプライバシー意識の高まりなど、社会調査の実施環境は近年急激に変化しており、時勢を踏まえた調査方法の見直しが常に必要な状況である。国勢調査では2015年からインターネットでの回答が全国で可能となった他、大手マスコミが世論調査で採用しているRDD方式注2)では、2016年以降、従来の固定電話に加え携帯電話も対象とするなど、変化のスピードからは遅れ気味であるが、対策は講じられている。

コロナ禍で調査員の訪問が困難になったことは社会調査にとって逆風となった。2021年10月に国が実施した「社会生活基本調査」においても調査員が調査世帯に対して調査票を配布し、インターネットでの回答先を除き回収も行ったが、オートロックマンションの増加などもあり、個人に対する従来の調査手法は限界に近づいている。

また企業にとっては、EBPMを目的とした社会調査の増加が新たな事務負担となっている。複数の行政機関が、類似するアンケート調査を同じ対象先に依頼するなど非効率な運用も散見され、負担軽減への配慮が必要である。そのような中でも、多くの企業は行政機関が実施する調査に対し、社会的責任の観点もあり協力的であるが、これらの調査結果が有意義に活用されなければ、協力姿勢が継続するとは限らない。

今後とも有意義な社会調査を実施していくため実施者が心がけるべきことは、調査結果を速やかに公表するとともに、社会のために役立てていこうとする姿勢である。基幹統計注3)には適用例こそ少ないものの統計法上の罰則規定があり、回答は義務とも言えるが、回答者に負担をかける以上、実施者にも相応の義務はある。基幹統計以外の調査ではその姿勢はさらに重要となり、社会にとって役立っていなければ、回答者にとって単なる迷惑行為であることを実施者は認識する必要がある。

社会調査は我が国の政治・経済の運営に不可欠な社会インフラの一つである。今後とも質の高い社会調査を実施し、社会の発展に貢献するためには、実施者と利用者の双方が統計リテラシーを高めることで、WIN-WINの関係を構築することが重要となる。

注1) 調査者が調査対象である社会や組織に加わり、長期にわたり交流しながら観察し、資料を収集する方法。
注2) Random Digit Dialingの略。コンピューターで無作為に数字を組み合わせて番号を作り、電話をかけて調査する方法。
注3) 行政機関が作成する統計のうち総務大臣が指定する特に重要な統計。基幹統計を中心として公的統計の体系的整備が図られている。