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■ コメ価格高騰の経緯
2024年の夏場以降、コメ価格が右肩上がりで上昇しており、「令和のコメ騒動」と呼ばれる状況が続いている。
この原因について国は、作況指数が平年並みであったことから「コメ不足に備えた小売業や外食産業による在庫の積み増しが主な原因」との見方を示したが、流通・小売の現場からはそもそもの供給不足を指摘する声が上がった。実際のところ、猛暑の影響により市場価値のないコメが増加する一方で、インバウンドによる需要増加などもあり、コメの需給バランスが崩れていることも、今回の騒動の要因の一つと思われる。
主食であるコメは価格が上がっても需要が大きく減少せず、価格弾力性(価格変動による需給の変化を数値化したもの)が低い。これは見方を変えれば、わずかな供給不足が価格高騰に直結することを意味している。
■ 備蓄米の放出
政府は、価格高騰への対処として、緊急事態に備えて確保している備蓄米の放出を決定し、2025年3月に初回の入札が実施された。この措置は、これまで深刻な不作や災害などに限った運用であったが、今回のコメ不足を受け、流通に支障が生じた場合にも放出できるように運用が見直された。
備蓄米の放出は新米が出回る7月頃まで毎月実施されるようであるが、市場に出回るまでの手続きに時間を要することに加え、コメの流通量に占める割合が限定的であることから、小売店におけるコメの平均販売価格は上昇が続いている(2025年5月初旬現在)。また、事業者は高値で仕入れた在庫を抱えており、それらを同時に販売することから、備蓄米が多少出回ったとしても消費者が価格低下を実感するのは当面先と思われる。さらに主要生産地から遠い関西などでは物流費が嵩み、価格抑制の効果が低下してしまう可能性もある。
■ 持続可能な農業の確立に向けて
コメは、食糧管理法のもと国が全量を管理してきた。その後、食生活の変化による消費減少を受けて1971年に減反政策が導入され、国主導による生産調整が始まった。全量管理は1993年の冷夏による大不作を機に転換され、1995年からは新しい法律(主要食糧法)のもと国の役割は備蓄運営に限定されたが、減反政策は価格安定のため2018年まで続いた。現在も転作に補助金が支払われるなど、実質的な減反政策が実施されている。
このように農家が安定的な生産を続けられるように需給バランスを維持することが国の政策における前提となってきたため、政府は備蓄米の放出にも慎重であった。一方で、最近の不安定な世界情勢と円安により農家の生産コストは高騰しており、コメ作りで利益を出すことは困難な状況となっている。ただでさえ、高齢化の進展とともに農業の担い手は減少しており、コメ作りを次世代に承継せず、水田を放棄する人は増え続けるだろう。
我が国の食料自給率は40%未満で、欧米主要国と比べてかなり低い(農林水産省「食料需給表」)。そのような中、米国との関税措置見直しを受けた交渉では、米国産コメの輸入拡大案が材料とされそうだ。コメ不足と価格高騰を解消する特効薬となり、自動車など主要産業の追加関税見直しに効果を発揮する可能性もあるが、食料安全保障上の懸念は大きく、慎重な交渉が必要だろう。
令和のコメ騒動は、食料の安定供給を前提とする日本国民に警鐘を鳴らした。農業を持続可能なものとするため、補助金行政からの脱却を図るとともに、儲かる産業として生産性を高めるための官民での創意工夫が必要となる。(秋山利隆)