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NHK大河ドラマ(以下「大河ドラマ」)の舞台となった地域では、放映期間中に全国的な注目を集め、観光客が急増する現象がしばしば発生する。ドラマに登場する歴史上の人物や、ゆかりの名所・旧跡を訪れようと、多くの観光客が一時的に押し寄せることで、地元の宿泊施設や飲食店、土産物店などが活況を呈し、経済的にも大きな波及効果をもたらす。
しかしながら、このような観光ブームは、多くの場合「大河バブル」とも称されるように、一過性で終わることが少なくない。ドラマの終了とともに観光客の数は急激に減少し、にぎわいを見せていた地元経済も次第に沈静化する。こうした“反動減”(急激な観光客減少)を抑え、観光の魅力を継続的に維持・発展させることが、地域振興における喫緊の課題である。
この課題に対する有効なアプローチの一つとして、近年注目されているのが「ナッジ理論」の活用である。ナッジ理論とは、人々の選択の自由を尊重しつつ、自然に望ましい行動へと導くような仕掛けや環境を設計するという、行動経済学に基づく実践的な手法である。たとえば、スーパーマーケットでレジ前の床に足跡マークを描くことで順番待ちの列を整えたり、エレベーター前に「階段を使うと○カロリー消費」と掲示したりすることで、人々に無理なく階段の利用を促す例が知られている。観光の分野でも「○%の観光客がバスや電車を利用しています」と表示することで、移動を車から公共交通へシフトさせるなどの取り組みがある。これを大河ドラマ関連の観光に応用することで、持続可能な地域振興につながる可能性がある。

なお、2026年1月から放送予定の大河ドラマ『豊臣兄弟!』では、豊臣秀吉の弟・秀長が主人公に据えられ、奈良県大和郡山市が主な舞台の一つとして登場する予定である。この機会を地域振興の好機と捉え、放映前の段階からナッジ理論を取り入れた観光戦略を計画的に準備することは、観光資源の効果的な活用と持続的な地域活性化に向けた重要な一歩となるだろう。(丸尾尚史)
