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県内地元産業の現況  
奈良県内の繊維関連産業・流通小売業等の地元産業の現況に関する情報を提供しています。

*グラフを掲載した「地元産業の現況」(PDF版)はこちらをご覧ください。


流通小売業

近畿経済産業局発表の「百貨店・スーパー販売状況」によると12月の奈良県の百貨店・スーパー販売額(全店ベース、速報)は、前年同月比2.6%増加(近畿合計:5.4%増)と前年を上回った。

商品別内訳をみると、飲食料品は前年と比較して3.7%増加(同3.2%増)、衣料品が1.5%減少(同10.5%増)、身の回り品が4.7%減少(同14.8%増)。3年ぶりに行動制限のない年末年始を迎えたことで、来店客数が増加した。人出が回復したほか、水際対策の緩和によるインバウンドの増加に伴い大阪府や京都府など都市部の百貨店の販売額は好調だった。

12月、1月の県内百貨店・スーパーにおける状況は、行動制限解除により人の動きが活発になったことから、帰省や旅行に向けたスーツケースなどのトラベル用品や、外出機会の増加によるコートやマフラーなどの冬物衣料品の販売が伸びた。

昨年から続く食料品やエネルギー価格の高騰が家計を圧迫しているが、今年は久しぶりに家族や友人と集まって過ごす食卓を盛り上げようと、クリスマスケーキやおせち料理、大人数で楽しめるオードブルの販売が増加した。なかでも高価格帯の商品が好調だった。一方で、生活必需品や日々の食料品は、1回で購入する点数を少なくするなど、必要最低限の買い物に抑える傾向が見られることから、これまで以上に消費者の節約志向が高まっている。「イベントやハレの日には支出を惜しまないが、普段は節約するメリハリのある消費を心がけている印象がある」との声もある。

最近は、実店舗ではなくECサイトで購入する消費者も増えたため、ECサイトやアプリを活用した販売を強化する店舗も多い。また、値ごろ感や品質を重視したPB商品の開発・販売に力を注ぐなど消費者の購買行動の変化に対応した店舗運営の工夫が求められている。



観光産業(宿泊施設等)

奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、11月が前年同月比8.9ポイント上昇の84.5%、12月が同8.4ポイント上昇の73.7%、1月が同20.8ポイント上昇の65.9%であった。また宿泊人数は、11月が前年同月比26.1%増の53,556人、12月が同17.1%増の48,986人、1月が同63.2%増の44,354人であった。

コロナ禍で移動や外出に消極的であったシニア世代で観光・旅行への意欲が高まっている。奈良県では全国旅行支援の効果もあり、関東のシニア世代の需要を取り込み、秋の観光シーズンを通して宿泊者数は堅調に推移した。また韓国、台湾など東アジアを中心に外国人の観光消費も徐々に増加してきたようである。冬場は閑散期であるが、奈良県の県民割は全国旅行支援に比べて割引率等が大きく足もとの宿泊需要は堅調で、奈良市内の宿泊者数はコロナ前を上回る水準に回復している。

今後、コロナの5類への移行や外国人観光客の本格回復が見込まれる中、人手不足への対応が喫緊の課題で、宿泊需要に応える施設稼働ができない状況も想定される。デジタル技術の活用による生産性の向上、サービスに対する適正な対価設定といった施策をもとに相応の収益を確保し、その一部を従業員に還元していくことが必要であるが、食材やエネルギー価格の高騰などコスト負担は増加しており、経営者にとっての難題となっている。



木材関連産業(国産材)

国土交通省「住宅着工統計」によると、2022年12月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比8.5%減少し、9か月連続の減少となった。資源高や円安などによる影響を受けて資材価格が高騰し、住宅の販売価格への波及が進んでいることが受注の下押し要因となっている。一方、高価格帯の住宅に使用される木材の受注には改善の傾向がみられるなど、中間所得層向けの住宅との間で二極化が進んでいるとの声もある。

農林水産省「木材流通統計調査」によると、2023年1月の国産材素材(丸太)の価格は、スギが前年同月比3.0%上昇、ヒノキは同21.0%下落となった。木材製品価格は、スギが同20.5%下落、ヒノキも同27.4%下落となった。県内原木市場における2022年1~12月期の取扱高(金額ベース)は、スギが前年同期比16.6%増、ヒノキが2.4%増、原木合計で7.5%増となった。一部の市場が集約化され、品揃えの拡充が幅広い集客や取扱高の増加につながっている面もある。

吉野産のスギやヒノキの美しさ、耐久性などの品質が注目を集め、地元奈良や東京などで各種イベントや展示会が開催されている。製品の紹介だけでなく、地域内の森林資源が持続的に循環される仕組みが理解できるような展示も行われている。県産材に関する情報発信が強化され、さらなる需要拡大に寄与することが期待されている。


繊維関連産業(靴下・パンスト等)

経済産業省「生産動態統計」によると、2022年10月~12月の靴下(パンスト除く)生産数量は11,882千点と前年同期比▲3.3%。パンスト生産数量は10,427千点と同+4.8%となった。

靴下についてはアウトドアやスポーツ関連商品などの分野では高品質な商品の販売が好調だったものの、全般的には大きな変化がなかった。コロナ禍の入国制限が緩和される方向であるため、今後はインバウンド需要の回復が期待される。

生産動向については急激な為替相場の変動で円安人民元高となり、大手メーカーが一斉に中国での生産を取りやめ、国内生産に回帰する方針転換をした結果、県内メーカーには靴下やパンストの想定外の大口注文や引き合いが来ている。ただし、短納期要請が強いため、フル操業で対応する企業も増加している。

一方で、コロナ禍の影響で受注減となり、自社や外注先の生産能力引き下げを行ってきた企業も多く、一旦絞り込んだ生産能力を元に戻すことは容易ではなく、時間を要する見込みである。また、度重なる原材料価格の上昇・運賃の値上げ・賃上げ・円安等の複合的で急激な原価上昇を販売価格に反映させることが経営上の主要課題となっている。苦労の末受け入れられたとしても、実施は先のシーズンの製品からとなるなど当面は収益面で厳しい状況が続く。


プラスチック製品製造業

プラスチック製品製造業の足もとの受注状況は、全体的に回復基調にある。世界的にウィズコロナ禍での社会経済活動の維持が掲げられ、中国のゼロコロナ政策解除の動きもあって、徐々にモノが流れ出し、生産調整が緩和されつつあることが大きい。ただし生産や売上は昨年比微増に留まり、依然コロナ前の水準までは戻っていない。

主要材料のペレットは、原油価格の高騰や円安を主因に値上がりを続けていたが、昨年11月頃より一段落し、足もとは緩やかに低下している。

一方で、事業者の重荷となっているのが、光熱費や物流費といった経費負担の上昇で、電気代が昨年比2倍を超える事業所もある。

これら製造コスト上昇分の販売価格への転嫁は、原料上昇分のみ転嫁を進める企業が一部で見られるものの、低単価品を扱う事業者の多くは、薄利多売のビジネスモデルで、転嫁余地が乏しいため十分に進まず、収益を圧迫している。

設備投資について、諸コストの増加により全体的な投資マインドは低いものの、ロボットやAIシステムを活用した自動化投資や環境対策として設備の燃費向上促進を目的とする投資を検討する企業もあり、企業間で格差が見られる。

人材面では、技能実習生の登用が円安の影響からやや鈍化する一方、国内人材は求人に対する応募が極端に少なく、人手不足感は解消していない。


製薬業

厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、2022年6月~2022年11月累計の医薬品の生産金額の全国総計は前年同期比+4.9%(うち受託+9.8%)、奈良県は▲22.3%(うち受託▲25.5%)であった。全国的には、新型コロナウイルス感染拡大により減少していた受診の回復と、ジェネリック医薬品の供給不足から新薬へ振り替わったことにより、医療用医薬品を中心に金額が伸びた。ただし、県内には医療用医薬品製造企業がほぼないことからこの傾向は見られなかった。

県内企業の動向では、低調であったドラッグストアが持ち直してきたことから多くの企業で製造が活発になっている。低調であった総合感冒薬は、コロナ軽症感染者による需要などで上向き傾向にある。ワクチン接種の副反応に備えて売り上げを伸ばしてきた解熱鎮痛剤の伸び率はやや鈍化している。鼻炎薬や花粉症関連商品は回復の兆しが見られ、花粉の飛散が本格化する時期に備えて需要は増加すると見込まれる。一方、滋養強壮を謳うオリジナル製品のドリンクはエナジードリンクに押され、引き続き落ち込みが続いている。配置薬に関しては、コロナ禍の影響で訪問需要は減少しており、手軽に購入できるドラッグストアが身近にあるなど環境が変化しつつある近年では需要の回復はあまり期待できない。消費減から製造廃止商品の増加も懸念され、業界は厳しい環境が続くと思われるとの声もあった。

一部商品で回復傾向が見られるものの、医薬品の需要は感染収束後も従来の水準には戻らないとも言われている。政府による薬価の引き下げとジェネリック医薬品の使用推進に加え、原料の高騰により利益は益々減少傾向にある。メーカーからの要望も多様化する中、品質管理や安定供給体制の強化に向けた管理コストも増加すると見込まれる。DX化を導入するなどビジネスモデルの見直しとともに、他府県に流れがちな専門知識を持つ人材の獲得・育成にも力を入れたいと話す企業もあった。


乗用車販売

奈良運輸支局及び奈良県軽自動車協会によると、奈良県内の2022年の乗用車新車登録台数(普通+小型+軽)は前年比3,031台減(8.0%減)の34,904台となり5年連続で減少した。

依然として半導体不足で新車の生産が需要に追い付かない状況が続いているものの、新車の登録台数は徐々に回復しつつあり、9月に前年同月を上回って以降は増加傾向で推移している。ただし、年前半の供給不足の影響が大きかったため、通期では前年割れとなった。

コロナ禍の影響で、感染リスクを抑えながらキャンプや屋外でレジャーを楽しむために車を購入する消費者が増加した。また、消費者の購買行動にも変化が見られ、納車時期が判断材料として重視されるようになったことから、車検までに納車が可能な車種や他メーカーへの乗り換え、短期間で納車可能な中古車の購入者が増加する動きも出てきた。在庫を確保できれば売り手優位で商談が進むため、販売店では業績回復の商機として調達に力を入れている。

また、自動車メーカーが円安や物価上昇等を受けた価格改定を実施したため、新車購入の際にローンを利用する消費者が増えている。逆に節約志向が強い消費者は車種の変更や中古車を購入するケースもあり、当面はこうした傾向が続くものと見込まれる。

運輸業(道路貨物運送)

運輸業界における当面の共通課題は「2024年問題」への対応となる。この問題は、自動車運転業務について猶予されてきた働き方改革関連法による時間外労働の上限規制等が2024年4月から適用されることを指す。特に道路貨物運送業において体制整備が進んでおらず、ドライバーの人手不足の原因でもある長時間労働の是正に事業の存続をかけて取り組んでいくこととなる。

道路貨物運送業は、「標準的な運賃」に基づく荷主との値上げ交渉が進展しない中、業務効率化への取組みが不可欠となっている。各事業者においては、共同配送やデジタル技術の導入といった物流プロセスの見直しなどにより労働生産性の向上に取り組んでいく必要があるが、奈良県内の多くの中小事業者は日常業務に精一杯で、資金繰りも厳しいことから、2024年問題を見据えた将来投資には手が回っていないようだ。

道路旅客運送業は、一般乗合バスの利用者が、コロナ前との比較で2割程度の減少が続く。インバウンドの回復は見込まれるが、勤務形態の多様化や人口減少による利用者の減少は続くため、コロナ以前の水準への回復は見通せない。貸切バスは、修学旅行や学校行事での利用が回復する一方で、シーズンオフの利用が多かった社員旅行などの一般団体は回復の目途が立っておらず、季節による繁閑差の解消が今後の課題となっている。

タクシーは、夜間利用が低迷し回復の見込みもない中で、秋シーズンは県民割のクーポン利用などもあり観光客の利用は増加。そのため夜間勤務を伴う隔日勤務者を昼間勤務中心の日勤勤務者とするなど、ドライバーの勤務形態を変更することで、既存人員で需要増加に対応している。奈良県では女性ドライバーはまだ少ないが、勤務時間を柔軟に設定できるなど子育て中の女性にとってのメリットもある。恒常的な人手不足に悩まされている業界であり、女性活躍の推進が課題解決につながる可能性がある。