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県内地元産業の現況  
奈良県内の繊維関連産業・流通小売業等の地元産業の現況に関する情報を提供しています。

*グラフを掲載した「地元産業の現況」(PDF版)はこちらをご覧ください。


観光産業(宿泊施設等)

奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、5月が前年同月比9.2ポイント上昇の75.6%、6月が同7.0ポイント上昇の68.4%、7月が同3.7ポイント低下の59.3%であった。また宿泊人数は、5月が前年同月比21.8%増の51,526人、6月が同22.1%増の42,334人、7月が同2.7%増の39,257人であった。

奈良県の県民割は7月末までは個人旅行にも適用され、日本人観光客の旅行需要を喚起した。インバウンドの県内宿泊は、アメリカ、フランスを中心に欧米人の需要を多く取り込んだ一方、コロナ前は約6割を占めていた中国人は回復していない。もっとも人手不足が深刻な中、稼働率よりもADR(平均客室単価)を重視するとの声があるなど、持続可能な経営への意識は鮮明となっている。そのような中、貸切バス利用の団体旅行について県民割が11月末まで延長されたが、各施設ではリピーターへのサービス向上や働き方改革への対応を優先し、県民割はあくまで補完的な位置づけとして対応の要否を検討していくようだ。

奈良市内では、外資系のラグジュアリーホテルの開業、コロナ病棟となっていたエコノミークラスのホテルの営業再開などもあり、フロントや客室清掃などの人材獲得競争が激化している。各施設では、従業員処遇の改善を通じ有能な人材を確保していくことが不可欠の施策となる。



木材関連産業(国産材)

国土交通省「住宅着工統計」によると、2023年6月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比6.4%減少し、15か月連続の減少となった。資源高や円安を受けて全般的に資材価格が高止まりし、販売価格への波及が進んでいること、建設業界における人手不足の深刻化、働き方改革による作業時間短縮の影響を受けて工期が長期化していることなどが受注の下押し要因となっている。

農林水産省「木材流通統計調査」によると、2023年7月の国産材素材(丸太)の価格は、スギが前年同月比17.1%下落、ヒノキも同19.0%下落となった。木材製品価格は、スギが同30.9%下落、ヒノキも同29.3%下落となった。県内原木市場における2023年1~6月期の取扱高(金額ベース)は、スギが前年同期比21.6%減、ヒノキが21.4%減、原木合計で21.4%減となった。住宅着工戸数の減少で木材の需要が減少し、相場維持のために出材調整が行われているという声もある。

2025年大阪・関西万博の運営参加特別プログラム「Co-Design Challenge(CDC)」の選定事業と参加事業者が発表された。資源循環や環境保全、防災など、新たな製品やサービスが豊かな生活の実現や社会課題の解決につながるような取組みとして、国産材の活用をテーマにした事業も複数選定されている。このような周知活動が実を結び、需要拡大に寄与することが期待されている。



繊維関連産業(靴下・パンスト等)

経済産業省「生産動態統計」によると、2023年4月~6月の靴下(パンスト除く)生産数量は10,868千点と前年同期比12.7%減少し、パンスト生産数量は11,908千点と同29.2%増加した。

経済活動の正常化が一段と進み、テレワークの減少に加え、冠婚葬祭や式典などフォーマルな装いを求められる機会が増加したことでパンストの需要が増加したと見られる。

価格面では、原材料価格や電気代の高騰、人件費増加等の影響で製造費用の上昇は続いているが、メーカーとの価格交渉が進展し、販売価格への転嫁が徐々に進んでいる様子が見られた。

需要面については、コロナ禍における業界再編を乗り越えた事業者に受注が集中している状態。ただ、そうした事業者の多くは、コロナ禍で生産能力を絞っており、すぐに戻すことも難しいため、需要に対する供給量は不足している。

DX化については、靴下(パンストを除く)では分業が多く、分業先には高齢の職人も多いため、自社単体でDX化を行っても工程全体の最適化にはつながらず、効果は限定される。また、パンストはOEM生産が多く、低利益率となりやすい製品である一方、材質が薄く破れやすいため、高額な高精度の機械を導入する必要がある。こういった業界構造上の問題もあり、生産性向上に資するDX化進行は足踏みが続くことが想定される。



家電大型専門店

経済産業省「商業動態統計月報(6月確報)」によれば、2023年6月の奈良県の家電大型専門店販売額は前年同月比9.3%減の3,433百万円。店舗数は前年より1か店増加し35か店となった。

今年は、新型コロナウイルスの感染法上の分類が5類に移行したことによる外出機会の増加により人の動きも活発になり、コロナ前の日常に戻りつつある。外出の際にマスクを外す機会も増え、ドライヤーや男性用シェーバー、美顔器など身だしなみに関する家電の需要が高まっている。また今年は例年に比べて記録的猛暑となったことから、エアコンや扇風機、サーキュレーターの売り上げが増加した。特に昨年から続く電気代の値上がりを受け、省エネタイプの製品が好調となっている。

昨年の世界的な半導体不足や中国・上海のロックダウンによる品不足は落ち着きを取り戻したものの、原材料高による販売価格の上昇やエネルギー価格の高騰、外出機会の増加によるレジャー関連への消費の増加による家電への支出の減少など、家電業界を取り巻く環境は依然として厳しい。ただインバウンドに関しては好調に推移していることから、今後中国から日本への団体旅行解禁などによる更なる売り上げを期待する声もある。



プラスチック製品製造業

プラスチック製品製造業の足元の受注状況はコロナ禍からの経済回復が進み、全体的に回復基調にある。原材料であるナフサの価格は中国経済の不振等により落ち着いているが、成型に熱処理を加えるために必要な電気代の高騰が続いており、製造コストの上昇が原料安を吸収できず、収益の回復に至っていない企業が多い。

高付加価値の自動車・家電製品向けの産業用プラスチック製品等を扱う企業は価格転嫁の進展に加え、原材料高騰の落ち着きにより収益は改善傾向にある。一方で、日用品や家庭用雑貨等を扱う企業は依然価格転嫁交渉に苦慮するなど、収益における企業間格差の拡大が一段と進んでいる。

設備投資については、生産工程の改善や省電力化を目的とする機械装置等の更新、環境問題への取組みとして植物由来の原料への切替等を目的とした設備導入に取組む企業の動きも一部に見られるが、抜本的な収益回復の目途が立たない状況の中、投資意欲は全般的に弱い。

人材面では、新規採用に対する応募がほとんど無く、中途採用や外国人技能実習生の活用で運営を維持している。賃上げについて、ベースアップ実施に踏み切る余裕は無く、大半は物価高に対する手当等の支給にとどまっている。人手不足の問題が喫緊の課題として対応を迫られているが、根本的な解決の見通しは立っていない。



製薬業

厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、2022年12月~2023年5月累計の医薬品の生産金額の全国総計は前年同期比+4.3%(うち受託▲14.5%)、奈良県は▲27.9%(うち受託▲35.6%)であった。全国的には、一般用医薬品(OTC)市場での販売が増加。コロナ禍を経て、外出機会の増加やインバウンドの回復を受け風邪薬などの需要が膨らんでいる。ジェネリック医薬品は限定出荷や供給停止状態の品目があるなど、品薄状態が続いており、供給不足は今後も継続する可能性がある。

県内企業の動向については、後継者不足による廃業や製造拠点の県外シフトにより前年同期比では減少している。しかしながら、風邪薬を中心にドラッグストア等での一般用医薬品の販売が回復基調となっており、売り上げも増加傾向にある。インバウンドによる購入は回復が見られるが、コロナ前の水準に戻るには時間がかかる見込み。また、多くの企業で引き合いが増加しているものの、人材不足と設備投資に伴うコスト増により受注しきれていないとの声も聞かれた。

配置薬に関しては、手軽に購入できるドラッグストアの増加やライフスタイルの変化により売り上げは減少している。

政府による薬価引き下げの推進が続く中、原材料価格やエネルギー価格の上昇が事業者の収益率を圧迫している。商品への価格転嫁が十分できておらず、原材料価格、エネルギー価格上昇による収益圧迫は今後も課題である。また、メーカーからの要望も多様化しており、設備投資や品質管理、安定供給体制の強化に向けた管理コストも増加すると見込まれる。採算と人手不足を補うためにDX化やオートメーション化の検討が必要な時代ではあるが、同業界は製造工程が複雑なうえに品質管理や安全管理面での基準が厳しく、取組みは容易ではないとの話も聞かれた。



乗用車販売店

奈良運輸支局及び奈良県軽自動車協会によると、県内の乗用車新車販売台数は2023年1~7月の累計では、普通車+小型車が15,488台(前年同期比21.2%増加)、軽自動車が8,744台(同13.6%増加)と大きく増加した。

新車市場の動向については、半導体不足の緩和が見られ、過去の受注への対応が進むことで納車までの遅れを取り戻し、販売が進んでいる。足元の受注数では、販売価格の上昇に伴い、買い控える顧客も少数存在するが、県内では車が生活に欠かせないことが多く、ほぼ横ばいで推移している様子。

価格面では、原材料価格や電気代の高騰に加え、最低賃金の上昇など人件費増加も続き、製造価格、販売価格ともに上昇が続いている。

中古車市場の動向としては、新車の納車が進むことで下取りが増え、在庫の確保が進んでいる。在庫増加に伴い、高止まりしていた販売価格は低下し始め、販売台数増加の好影響と販売価格低下の悪影響が拮抗し、中古車事業は横ばいで推移すると見通す事業者が一定数見られた。

昨今、注目を集めているEV車については、補助金ありきでも値段が比較的高く、戸建てに住む顧客しか自由に充電設備を備え付けることができない等、インフラ面での制約も多い。走行可能距離や加速力など性能面の課題は解決が進んでいるが、普及には時間を要する見通しとなっている。



機械関連産業

道路貨物運送業は、経済活動の活発化に伴う物流の回復が期待されるが、物価高に加え猛暑による消費減退により、荷動きに目立った改善は見られない。ドライバーの労働時間の規制強化に伴う人手不足で物流の停滞が懸念される「2024年問題」が社会問題となる中、国や業界団体では運賃値上げや長時間の荷待ちなど業界慣行の見直しに向けた取組みを強化している。一方で、奈良県内の中小事業者では、厳しい経営環境の下で限られた仕事を奪い合う構図に変化は見られないようだ。

道路旅客運送業は、一般乗合バスの利用者が観光客の増加もあり回復している。通勤・通学の利用者についても、コロナ5類移行後は一段の回復が見られる。観光バスの需要は増加しているが、ドライバー確保のためには路線バスの運行計画を見直す必要があり、公共交通機関としての対応には限界がある。人手不足解消には給与面など待遇改善が必要であるが、原資となる運賃の値上げは、日常生活にバス利用が不可欠な地域住民には影響が大きいことから、慎重な対応が必要となる。

タクシーは観光目的での利用増加に加え、コロナ禍では大幅に減少していた夜間利用も徐々に回復している。猛暑による利用者の増加も見られるようだ。県内でも配車アプリの利用が徐々に増加しており、電話予約からのシフトが見られる。AIを活用したデマンド交通サービスの実証実験が官民の連携で計画されるなど、新技術による新たなビジネスが生まれつつある。

国は6月から、ガソリン価格抑制のため石油元売り会社に支給してきた補助金を段階的に縮小しており、9月末には終了する予定としている。運輸業界の各社にとっては、設備更新やDX化など生産性向上のための施策が喫緊の課題となっているが、車両代や燃料費など物価は全般的に高騰しており、持続可能な経営にあたっての先行き不透明感は大きい。