県内地元産業の現況 | |
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近畿経済産業局発表の「百貨店・スーパー販売状況」によると3月の奈良県の百貨店・スーパー販売額(全店ベース、速報)は、前年同月比0.6%増加(近畿合計:0.3%減)と前年を上回った。
商品別内訳をみると、飲食料品は前年と比較して1.9%増加(同1.1%増)、衣料品が8.1%減少(同3.3%減)、身の回り品が12.4%減少(同12.0%減)。
米国トランプ政権の関税引き上げを巡る混乱を受け為替が不安定な動きを見せる中、これまで円安を追い風に伸びていたインバウンド特需にも一服感がみられる。特に大阪や京都など都市部の百貨店では販売額が減少している。
3月、4月の県内百貨店・スーパーにおける状況は、長引く物価上昇による消費者の節約志向が続く厳しい状況となっている。
衣料品は、寒暖差が激しい日が多かったため春物商品の販売は伸びなかったが、春休みや新学期を前に子供服の販売は好調だった。食料品は、昨年の夏頃から続く米の価格高騰、さらには物価の優等生と言われる卵の価格が上昇したことで客単価が上がり店舗の売り上げは増加したものの、消費者にとっては厳しい状態が続いている。ある店舗では「備蓄米の放出が話題となっているが、まだまだ品薄の状態。価格も高騰している」と話す。少しでも価格を抑えた商品を購入するために商品ごとの店舗の使い分けや、形や味に多少のばらつきがあっても比較的安い値段で購入できる「道の駅」を利用するなど物価高を乗り切る消費者の工夫が見られる。
「最近は共働き世帯も多く、買い物に時間をかけられない家庭も多い。そのため仕事帰りに立ち寄れて、商品を探す時間をかけずに買い物ができる『ショートタイムショッピング』が好まれる傾向がある。流通業界の流れの速さに取り残されないよう常に消費者動向にアンテナを張って、柔軟に対応することが必要だ」との声も聞かれる。
観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、県内宿泊施設における冬季(12月~2月)の稼働率は各月とも前年を上回り、宿泊者数も各月で前年比増加するなど堅調に推移した。奈良市内や明日香・橿原など主要観光地においては、3月、4月からゴールデンウィークにかけての春の観光シーズンについても堅調に推移したようだ。
3月下旬から4月にかけての観桜期は天候に恵まれたことに加え、桜の開花時期が後ずれしたこともあり、観桜期とゴールデンウィークの狭間の時期においても例年のような落ち込みがなく好調が持続したとの声もあった。また、4月から始まった奈良国立博物館の特別展「超国宝」は、関東方面を中心に日本人の宿泊需要につながっており、ADR(客室平均単価)も上昇している。インバウンドの宿泊については、奈良市内は好調であったが、それ以外の地域はコロナ禍以降の団体旅行から個人旅行へのシフトに伴い新たなニーズを取り込めず、低迷が続いている。
4月に大阪・関西万博が開幕し、拡張万博がキーワードとなる中、来場者の周辺地域への周遊による観光消費を通じた経済効果が期待される。奈良県においては、来場者の周遊による直接的な効果が中心となるが、宿泊を伴う周遊の効果は現時点では奈良市内に限定されており、中南和では顕著な変化は見られない。大阪市内の宿泊施設は価格高騰が顕著で、ビジネス客が相対的に価格の安い奈良市内に宿泊するという間接的な効果も一部にはあるようだ。
大阪・関西万博の会場では、4月に県内市町村がブースを出展し歴史・文化・観光・食などを展示・発信したほか、奈良県も観光WEBサービスのPRを行うなど、誘客につなげる取り組みを行った。今後、観光・産業振興を目指したイベントが県内各地で企画されており、万博を契機とした県内観光の盛り上がりが期待される。
国土交通省「住宅着工統計」によると、2024年10月~2025年3月の木造住宅の新設着工戸数は前年同期比8.5%増加。人口減少に伴う前年割れが続くなか、足元は下げ止まりの兆しが見える。もっとも、これは建築基準法改正(2025年4月)による設計士の費用増加や工期の長期化を見越した駆け込み需要の影響が大きく、中長期的な減少トレンドに変わりはない。
直近の県内集成材製品価格は、原材料仕入価格高騰を受けた価格転嫁がようやく進展し、少し上昇したものの、建築資材の値上げは住宅販売価格の上昇に直結するだけに、住宅市況の低迷下でのさらなる製品価格の値上げは困難な状況にある。
一方、梁(はり)や柱に用いられる構造用集成材の原料となる欧州産ラミナ(集成材を構成する挽き板あるいは小角材のピース)は、環境問題への意識の高まりから丸太の伐採量が制限されたことに加え、人件費や燃料費の高騰により上昇傾向が続いているため、製材業者にとっては厳しい経営環境が続くと思われる。
木造住宅の建設や修繕を行う大工の人口が過去20年間で2分の1の約30万人に減少している(2020年・総務省「国勢調査」)。県内では、木造住宅建築の担い手不足解消と木材利用促進のため、新たな取組みとして製材業者が建築請負事業に参入する動きもある。
経済産業省「生産動態統計」によると、2025年1月~3月の靴下(パンスト除く)生産数量は9,948千点と前年同期比9.1%減少し、パンスト生産数量も8,967千点と同20.1%減少した。
靴下(パンスト除く)については、1月に県外でスポーツ用靴下を製造している事業者が倒産するなどの影響もあり、生産数量は減少した。
パンストについても、2023、24年と中規模メーカーの倒産が続く中、今年3月にも大手メーカーのストッキング生産工場が閉鎖し、生産数量は大幅に減少した。昨今では、オフィスカジュアル化が進んでいることに加え、スーツ勤務であってもパンツスタイルを選ぶ女性が増えているなど、今後もファッションの多様化が進み、需要減少は続くと見られている。
また、輸入浸透率90%超の靴下業界において、製品の高付加価値化に踏み切れていない事業者や販促活動が上手くいっていない事業者などは安価な海外製品との競合に巻き込まれ、今後も統廃合等による業界再編は続く見通し。
県靴下工業協同組合は、奈良公園バスターミナルで1月に開催した第一回に続いて、「“The Pair”靴下の市」を5月上旬に橿原市の大型商業施設敷地内で開催した。県内靴下メーカーはこのような機会を活かし、自社ブランド商品の販促活動を積極的に進めている。
国土交通省の建築着工統計調査による2024年4月から2025年3月までの1年間の県内の工事費予定額をみると、全体の予定額は2,226億円で、民間工事は前年比0.1%の増加、公共工事は同42.2%増加となった。なお、民間の建築物の棟数は前年比2.2%増、床面積も同4.0%増。
上記調査のとおり、民間工事はコロナ禍の低迷から受注環境は徐々に回復の動きが見られるものの、力強さに欠け、横ばいとなっている。
2024年4月以降、改正労働基準法施行に伴い、時間外労働の上限規制が設けられたため、工事現場での週休2日が定着し、工期は長期化を余儀なくされている。また、内装、電気工事といった専門技術者をはじめ、建設作業員から現場監督者まで高齢化や人手不足となっている。
こうしたなか、県内の中小建設業者においても、工期の長期化や人手不足等により全ての依頼には対応しきれず、利益率が高い受注に絞る動きが見られる。
また、2024年11月から建設業においても下請法に関する「60日ルール」が適用され、支払手形サイト90日や120日だったものが60日に統一されることから、資金負担が増加する企業は多い。
今後、ICT(情報通信技術)を積極的に活用するなどして生産性向上に取り組み、労働環境改善や工期の適正化につなげるかが、課題となるだろう。
内閣府「機械受注統計」によると、全国の2025年3月の機械受注は、工作機械が前年同月比7.2%増で2か月ぶりの増加。電子・通信機械は同4.3%増で6か月連続の増加。産業機械は同4.6%増で5か月連続の増加となった。
「奈良県鉱工業指数(2015年=100:注)」で奈良県の2024年10月~2025年3月の機械の生産指数(原指数・平均)をみると、一般機械工業は前年同期比17.5%減の64.4、電気機械工業は同11.5%増の30.0、輸送機械工業は同1.5%減の72.9だった。
*注:抽出調査のため生産量全体の増減を示すものではない。
奈良県内の企業の動きをみると、生成AI・データセンター向けの半導体・電子部品製造装置などの需要は堅調に推移するものの、電気自動車(EV)市場の予測を上回る失速により、欧米や中国向けを中心に関連する製造機械や部品の受注・生産の動きは鈍く、総じて低調な傾向が続いている。
自動車産業を中心に米国政権による追加関税政策に対する警戒感が高まっており、今後の影響として受注の減少や収益の低下など業績の下振れが懸念されている。
物価高や米国の関税政策により先行きが不透明な状況の中、大型の設備投資を控える傾向が強いものの、脱炭素やDX、人手不足に伴う省人化など課題解決につながる設備投資の需要は引き続き好調を維持している。