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観光統計の精度向上に期待(2011年6月)
主席研究員 島田 清彦
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■なぜ奈良県の月別観光入込客数の最多は1月か?

2009年の観光入込客数は奈良県が3,460万人、京都市が4,690万人(奈良県の約1.4倍)となっている。一方、月別でみると、奈良県では1月の479万人(全体の14%)が年間で最も多いが、京都市の最多は行楽シーズンの11月(659万人:同14%)であり、1月は247万人(全体の5%)で奈良県の約1/2と少ない。

このような不可解(?)なことが起こる理由は、京都市と異なり、奈良県の観光入込客に初詣客が含まれているためであるが、何か違和感を覚える。


■推計手法の共通化で他府県との比較が可能に

これまでの観光統計は、調査主体により観光入込客の定義や推計手法等が異なっており、地域間の比較が困難であった。また、大半の県では延べ人数のみの把握であったため、適切なマーケティングや観光振興策に結びつけるのも困難であった。

しかしながら、2010年4~6月期から観光庁作成の「観光入込客統計に関する共通基準」に基づいた観光地点等入込客数調査と観光地点パラメータ調査が順次各県で行われており、実人数ベースの観光入込客数や観光消費額等について地域間での比較・分析が近いうちに可能になる見込みである。

ただし、共通基準採用後の観光統計であっても、その精度は各府県の努力に依存する所が大きい。

■近畿の中で唯一低迷している奈良県観光

共通基準採用後の観光統計の結果を待たずに、二つの数値の一方を比較の基準として、他方の大きさを相対的に表す「指数」を利用して、奈良県観光の現状を考察する。

「1980年の観光入込客数=100」として、近畿の他府県と比較して過去からの推移を見ると、2009年の観光入込客数は、京都府145.2、滋賀県172.7など、近隣他府県で概ね増加傾向が続いているなか、奈良県だけが89.2と90前後で推移している。

昨年の奈良県の観光入込客数は、平城遷都1300年祭の開催で大幅に増加したと思われるが、このグラフを見る限り2009年までは近隣他府県と比較して奈良県観光の低迷状態はあきらかである。

2011年以降は、昨年の大幅増の反動減や大震災の影響などから過去の水準に戻る懸念があり、今後の動向に注視していきたい。 (島田 清彦)


図2

資料:奈良県「観光客動態調査報告書」、京都市「観光調査年報」
注:報告書の数値は実人数ではなく、延べ人数で記載されているが、
その旨の記載がないので注意が必要。

 
図4

資料:(社)日本観光協会「全国観光動向」、各府県ホームページ

注:大阪府は97年まで統計がないため98年を基準とする指数。