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今、注目の経営指標「CCC」(2013年2月)
主任研究員 橋本 公秀
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■利益重視から資金効率重視の経営指標へ

日本の企業は従来、利益重視の指標を中心に業況判断をしてきたが、環境変化の速さに対応するため、資金の効率性を重視する「CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)」という新しい指標を取入れる企業が増えている。

主な経営指標は、その時代背景により重視される指標が変わってきた。1990年代前半は、バブル崩壊により企業の収益力が低下したため、売上高営業利益率が重視され、1990年代半ばから後半には、資本の効率性に焦点が集まり、自己資本利益率が指標の中核となった。2000年代に入り、収益性に代わり経営効率を表す指標に注目が集まり、2010年代には現金の効率的活用への問題意識の高まりから、CCCが注目されるようになった。

CCCとは、原材料や商品の仕入から、最後にキャッシュとしてコンバージョン(転換)するまでのサイクルのことで、投下した現金を回収するまでの日数を示す指標である。売上債権(売掛金と受取手形)と棚卸資産(期末の在庫)の回転日数の合計から、買入債務(買掛金と支払手形)の回転日数を差引いたものである。

一般的には、CCCが長いと多くの現金が、売上債権や棚卸資産などの非現金勘定となって事業活動に張りつくことになり、資金効率は芳しくないと考えられる。逆にCCCが短いほど、資金が効率的に使われていることを示している。図表1でメルシャン(株)(上場廃止)とサントリーホールディングス(株)のCCCを比較してみると、明らかにメルシャン(株)のほうが長く、資金効率が悪化していることが判る。

またメルシャン(株)のCCCと手元流動性比率※を見ると、CCCの長さに比べ、手元流動性比率はかなり短いことから、資金効率の悪化と、手元に保有する現預金が少ないことが原因で、資金繰りが悪化し経営が行き詰ったことがうかがえる。

 ※手元流動性比率……保有する現預金と有価証券を1日当たり売上高(売上高/365)で割ったもので、何日分の売上高に相当する現金及び現金同等物を保有しているかを示す。


図1

■潤沢な手元流動性比率も参考に それでは、CCCが長いと企業の業況まで悪化傾向にあると判断できるのだろうか?

図表2は、中小企業の製造業(全体)及び主な業種別のCCCと手元流動性比率の関係を表している。化学工業、生産用機械器具製造業、業務用機械器具製造業(以下、3業種)のCCCは、食料品製造業やプラスチック製品製造業に比べ比較的長く、資金繰りはやや繁忙であるように見える。

しかし、3業種の手元流動性比率はCCCを超えており、手元にある現金は潤沢であることがうかがえる。これは景気低迷等により、コストを切り詰めるだけの「縮んだ経営」を実践している企業が多く、積極的に設備投資等をする企業が少ないため、現預金などの手元資金が積み上がっている企業が多いのが原因である。 経済の先行きが混とんとしている昨今、CCCは、資金の効率性を表す重要な指標であるが、業況判断に際しては、手元流動性比率も参考にすることが必要である。                                                 (橋本公秀)   

図2