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「買い物弱者」より現実の姿を表す「買い物難民」(2013年11月)
主任研究員 橋本 公秀
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■買い物弱者の拡がり

郊外に大型店が増える中、少子高齢化の進展により、地域の小規模な食料品店等が減少し、買い物に不便をきたす人が多くなっているとの報道がある。

近隣商店の相次ぐ閉店や、バスなどの公共交通機関の廃止などの理由で日常の買い物や、生活に必要なサービスを受けるのに困難を感じている住民が「買い物弱者」又は「買い物難民」と呼ばれる。

図1

日本では、少子高齢化の進展により、買い物弱者が生まれたかのように論じられているが、はたしてそうだろうか。

少子高齢化の進展は、買い物弱者を増加させている要因の一つであろう。しかし、少子高齢化が進んでも、ヨーロッパ諸国の大型店に対する一定の規制を維持しているところでは、日本のような買い物弱者の問題は生じていない。

欧米では、1990年代から買い物弱者問題を「フードデザート(食の砂漠)」と呼んでいるが、これを生み出す原因が、「大型店の郊外進出の顕在化」にあると論じられている。

買い物弱者は、農村部など過疎化が進んだ地域の問題と捉えられがちだが、実際には都市部でも発生している。例えば、高度成長期に都市郊外の丘陵地に造られた団地では、当時中高年で入居した住民の高齢化が進み、団地内の小規模な食料品店の閉店やスーパーの撤退により、毎日の買物に苦労するケースがみられる。

この原因が、大店立地法の施行により、加速度的に増加した大型店の郊外進出が背景にあることを考慮すれば、日本も欧米と同じ理由、すなわち「大型店の郊外進出の顕在化」が原因で買い物弱者が増加していると考えられる。少子高齢化だけが増加の原因とは言い難いようだ。

では、「買い物弱者」と「買い物難民」に違いはあるのだろうか。


■現実感のある「買い物難民」

買い物弱者の定義については、経済産業省が「流通機能や交通の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況におかれている人々※1」としている。
※1経済産業省「地域生活インフラを支える流通のあり方研究報告書(2010年)」による。

しかし、近隣商店が閉店に追いやられた理由は、大型店の郊外進出が原因であれば、報道でもよく使われる「買い物難民」のほうがイメージに合うのではないだろうか。

経産省研究会の報告書では、「報道等では、『買い物難民』と呼ばれることが多いが『難民』は『(政治的・宗教的事情から)ある土地を離れて非難する人々』を指すことが多いため、当該報告書ではより広義に困難な状況にある人を意味する『弱者』を用いている」と説明している。

確かにその通りであるが、難民には「生活に困っている人々(現代新国語辞典:学研)」という意味もある。「帰宅難民」等と呼ばれる人々が、自ら土地を離れているのではなくても「難民」と呼ばれるように、大型店の郊外進出により住み慣れた地域の食料品店等が閉店し、日常の買い物に困っている買い物弱者を「買い物難民」と呼ぶ方が、より現実の姿を表しているように感じる。 (橋本 公秀)