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自動車産業で起こりつつある「破壊的イノベーション」の動き (2014年8月)
副主任研究員 吉村 謙一
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■自動車産業で起こりつつある大変動

既存市場の秩序を壊し業界構造を劇的に変化させる技術革新のことを「破壊的イノベーション」というが、わが国の基幹産業の一つである自動車産業で今まさにこの大変動が起こりつつある。カギを握るキーワードは以下の3つだ。

1.「電気自動車(EV)」

世界的に急速な環境規制強化が進む中、自動車メーカー各社では二酸化炭素排出量ゼロのEVや燃料電池車(FCV、水素と酸素を反応させて発電した電気で走るEVの一種)への取り組みが不可避となっている。下図の通り世界規模の合従連衡が起こり、各社各様の思惑が入り乱れる状況にある。


図1

わが国では、今年6月にトヨタが世界初のFCV量産車を今年度中に発売すると発表。燃料電池の制御には高度な技術が必要なことから、途上国に対し日本が優位性と競争力を持つとみて、政府も水素供給用のインフラ整備やFCV購入補助金などFCV普及を後押しする施策を示している。

EVの電池性能の限界に起因する航続距離の差(EVが200km、FCVが500km)や充填時間の短さから、現時点ではFCVの優位性に注目が集まりつつある。しかしEVは、汎用部品であるモーターや電池等を調達すれば新興国の自動車メーカーやベンチャー企業でも製造が可能であるため、品質にこだわらなければ参入障壁が低い。高性能電池の実用化という技術的ブレイクスルーがあればEVがFCVに対し一気に優位に立つ可能性も高い。

2.「コネクテッド・カー」

高速無線ブロードバンドで常時インターネットに接続され、OSやアプリで様々なサービスの提供を受けられる車がコネクテッド・カーである。カーナビは常に最新の地図情報や渋滞情報に更新され、施設情報やおすすめ情報を検索したり、自宅と同じように音楽配信やメール、SNSなどを楽しんだりすることも可能になる。

車は単なる移動手段ではなく、OSやアプリのサービスが大きな付加価値を生むいわば「走るスマホ」とでも呼べる存在となり、ソフトウェアの主導権を握る企業が競争力を持つ。車載OSでは米グーグルの「アンドロイドオート」と米アップルの「カープレイ」という二大勢力が、各自動車メーカーを陣営に取り込み激しく競争している。

3.「自動運転」

今年5月、グーグルは完全自動運転を実現した試作車を公開した。公道実験で50万km以上の無事故走行という実績をすでに残し、20年頃の実用化を目指している。日産も16年までに自動運転技術を部分的に使用した車を市販すると先頃発表した。

この自動運転を実現するのに重要な技術が制御用ソフトウェアと詳細な地図データだが、いずれもグーグルの得意とする分野であり、ここでもやはり既存の自動車メーカーは巨大IT企業の脅威にさらされることになろう。


■多くの業界への影響が予想される

いずれにせよ、今後の自動車産業が未だかつてない激変期に入ることは間違いないだろう。裾野が広い巨大産業なだけに多くの業界への影響が予想され、注視が必要である。 (吉村謙一)