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「社会的手抜き」を意識する(2015年5月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■「社会的手抜き」とは

「社会的手抜き」とは、ある仕事(作業)を1人で行った場合よりも集団で行った場合、1人あたりのパフォーマンスが低下する現象。「社会的手抜き」は単純作業から知的な活動まで幅広くみられ、集団の規模が大きくなればなるほど生じやすく、また、手抜きの度合いも高くなるという特徴を持つ。

例えば、フランスの心理学者リンゲルマンが綱引きで実験した結果によると、1人で引っ張った時の力を100%としたとき、2人になると93%、3人の場合は85%となり、8人なら半分以下の49%となった。このように、綱を引く人数が多くなればなるほど、1人あたりの発揮する力が低下していることがわかる。


■「社会的手抜き」発生の要因とその影響

「社会的手抜き」はなぜ発生するのか。その要因としては以下のようなものがある。

たとえ自分が頑張っても集団の成果として評価が行われ、個人は評価されない(または、されにくい)という「評価基準の問題」。他の人がしっかり仕事をしているので、同じだけの報酬を得られるなら自分が一生懸命仕事をする必要はないと考える「フリーライダー(ただ乗り)の存在」、他の人があまり頑張っていないにもかかわらず、自分だけ努力することはバカらしいと考える「不公平感の発生」などがある。また、箱に入った一個の腐ったリンゴが他のリンゴを腐らせるように、一人の手抜きの行動が他の人に影響を及ぼし、いつの間にか集団全体のパフォーマンスを低下させてしまう。

すなわち、手抜きは1人の人間だけの問題だけでは済まされず、集団全体へ悪い影響を及ぼすこともありうるということだ。


■「社会的手抜き」を防ぐには

「社会的手抜き」の防止策としてまず考えられるのは、手抜きをしないように(例えば上司が部下を)四六時中監視することだが、それは時間やコストがかかりすぎて現実的でない。集団内にギスギスした雰囲気も作ってしまう。また、手抜きの当事者を排除することは、一時的に効果が出ても抜本的な解決にはなりえない。

そこで、効果的な方法として以下の3点があげられる。

①仕事の範囲を明らかにし、個人の責任や目標を明確化するとともに、集団の成果に対する個人の貢献度を正確にフィードバックすること。

②コミュニケーションを密にして集団内での信頼関係を構築し、相互扶助の風土を形成すること。

③仕事の有意義性や重要性を説き、責任感を醸成させること。集団や仕事の魅力を向上させ、やる気を引き出すこと。


■おわりに

企業にとって「人」の集まりである集団での活動は必要不可欠であり、「人」は最も大事な経営資源でもある。そのため「社会的手抜き」の発生によって集団のパフォーマンスが低下し、「1+1」が2に満たないことは企業にとって大きな損失である。もちろん集団活動において「1+1」が2以上の結果をもたらすような相乗効果が得られた例も数多くみられるが、知らず知らずのうちに集団内に蔓延する手抜きは看過できない。

生産性の低下を避け、集団全体のパフォーマンスを最大限に発揮するためにも、人間の本質として存在する「社会的手抜き」を意識し、その対策を講じておく必要がある。(丸尾尚史)