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産業連関表から見た奈良県経済(2016年6月)
事務局長・主席研究員 島田 清彦
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2016年1月に奈良県総務部知事公室統計課から公表された「2011年奈良県産業連関表(*)」に基づき奈良県経済の現状を概観する。
*産業連関表は、一定地域の1年間における生産・取引の経済活動を金額ベースで一覧にした統計表。


■県内生産額、移輸出が大幅に減少

*〔 〕内は、奈良県と人口規模が近い滋賀県の数値。

2011年に奈良県内で生産された財貨・サービス(県内生産額(*1))は6兆1,936億円〔11兆5,028億円〕で、2005年に比べて額で5,798億円減少、率で8.6%減少〔1.2%減少〕。リーマン・ショックの発生やデフレの進行などの影響で奈良県の製造業(16.3%減少:寄与度▲5.1)や建設業(26.0%減少:同▲2.1)等の経済活動が低調であったことが主な原因と考えられる(サービス業は4.6%増加)。

一方、2011年の国内生産額は939兆円(奈良県の全国シェアは0.66%)で、05年比3.3%の減少に留まっており、奈良県経済の低迷ぶりがわかる。


■移輸出が大幅に減少し、県際収支の赤字が拡大

奈良県の移輸出(*2)は1兆8,774億円〔5兆9,762億円〕で、電子部品等の移輸出減少により同12.1%減少〔1.1%減少〕。一方、移輸入(*2)は2兆7,795億円〔5兆5,414億円〕で、サービス業や商業等の移輸入減少により05年比7.1%減少〔0.6%減〕。

移輸出から移輸入を差し引いた県際収支は9,021億円の移輸入超過で恒常的な赤字が続いており、05年(8,541億円)比で5.6%赤字が拡大。製造業だけでみると県際収支は▲1,912億円悪化した。

一方、滋賀県の県際収支は4,349億円(05年比6.7%減)で、移輸出が移輸入に比べて多い移輸出超過(黒字)となっており、奈良県とは対照的だ。

奈良県の産業別県際収支(37部門)をみると、電気機械、プラスチック・ゴム、業務用機械等が移輸出超過となっているが、05年比で県内生産額が81.9%減少した電子部品が553億円の移輸入超過となったほか、対事業所サービスと商業が2千億円以上の移輸入超過となっている。

■移輸出型産業の活性化、交流人口の増大を

県内では地方創生の取組みがスタートした。同取組みが「移輸出型産業の活性化による県外マネー獲得」「観光振興による交流人口増大と消費拡大」「高付加価値産業の育成」「移輸入の軽減による県内マネー流出の抑制」など、県際収支の改善につながることを期待したい。 (島田清彦)


*1: 県内で生み出された財・サービスの生産額のことで、出荷額や売上高と呼ばれるものに近い。県民経済計算の県内総生産が付加価値のみを指すのに対して、県産業連関表の県内生産額には中間投入額が含まれる。
  県内生産額=中間投入(原材料・燃料等)+粗付加価値(≒県内総生産)
   
*2: 「移輸出」は県内で生産された財・サービスを県外へ移出あるいは国外へ輸出すること。「移輸入」は生産物を県外から移入あるいは国外から輸入すること。

図1