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訪日外国人用交通パス「関西ワンパス」のデータ分析結果から考える(2017年8月)
主任研究員 吉村 謙一
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■奈良県の訪日外国人滞在時間は関西最下位

2017年4月に、国土交通省近畿運輸局、関西経済連合会、関西経済本部が連名で、訪日外国人旅行者向け関西統一交通パス「KANSAI ONE PASS(関西ワンパス)」のデータ分析結果を公表した(データ期間=2016年4月~12月、利用者サンプル数=42,130、延べ利用回数=約137万回)。

関西ワンパスは2016年4月から訪日外国人向けに試験販売されたチャージ式交通ICカードで、1枚で関西の鉄道9社局で利用可能。専用サイトにアクセスすれば、観光スポットやショッピング施設でのカード提示優待特典(合計約200か所)も確認できる。

関西ワンパスを利用した関西2府4県内の府県間流動量は、大阪-京都間の延べ約4万9千トリップが最多で、次いで大阪-奈良間の延べ約2万トリップが多い。大阪からの移動が多く入込客数では奈良県は延べ約14千人で3位だが、滞在時間では4.7時間と最下位(1位は大阪府の62.5時間)で、奈良県を日帰り観光で通過する外国人の多さがうかがえる。

奈良市、神戸市、京都市を日中観光した旅行者がその日の最後にどの府県で降車しているか(≒宿泊しているか)を見ると、奈良市は「大阪府72.8%、京都府18.4%、奈良県8.1%等」、神戸市は「大阪府70.4%、兵庫県26.1%、京都府3.3%等」、京都市は「京都府57.9%、大阪府39.7%、滋賀県1.6%等」だった。自府県内で宿泊した率は奈良市8.1%、神戸市26.1%、京都市57.9%となり、奈良市が最も地元での宿泊を取り込めていない。また奈良市と神戸市の訪問者の約7割は大阪府内で宿泊したと考えられる。

以上のことから、奈良県観光の課題が宿泊客の獲得であることが改めて明らかとなった。


■県内宿泊外国人客の増加に向けて

宿泊客の増加(滞在時間の延長)には、宿泊施設の整備と併せて、早朝と夜の観光資源の充実が必要である。朝なら例えば、春日大社の神職が早朝から境内を案内する企画が現在人気を集めているが、このような「今だけ・ここだけ・あなただけ」という特別な体験、いわゆる「コト消費」を朝夜に提案することが、外国人宿泊誘客に訴求力を持つと思われる。

また関西ワンパスサイトのアクセス分析では「優待特典」への関心が群を抜いており、同サイトへ特別感のある優待特典を提供する県内スポットの数を増やすのも有効であろう。(吉村謙一)


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